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27年前、人気ロックバンドが「激しさ」を捨てた“しずかな熱” 静かなロックで大賞に輝いたワケ

  • 2025.12.12

「27年前、HOMEって、どんな意味で聴こえていた?」

真夏の始まりを告げる7月。駅前のアスファルトが白く光り、吹き抜ける風さえ熱を帯びていた1998年。社会はスピードを増し、人も音楽も“強さ”を求められていた時代だった。だけど、だからこそ、ふと立ち止まった瞬間に胸の奥に染みる“静かな温度”を探していた人も多かったのではないだろうか。

そんな季節に、ひとつの曲がそっと寄り添うように生まれる。

B’z『HOME』(作詞:稲葉浩志・作曲:松本孝弘)――1998年7月8日発売

強さの裏側にあるやわらかさ。あの夏の空気に、そっと穏やかな場所をつくってくれた一曲だった。

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2006年、オリコン40周年記念表彰式「WE LOVE MUSIC AWARD」に出席したB'z・稲葉浩志(C)SANKEI

迷いの時代に響いた“帰る場所”のシンプルさ

『HOME』は、B’zにとって25枚目のシングル。すでに国民的ロックユニットとして圧倒的な存在感を放っていた二人だが、この曲には、派手さよりも“ひとつ息を落とすような静けさ”があった。

ギターは松本孝弘らしい伸びやかさを保ちながらも、強く主張しすぎないトーン。そこに稲葉浩志のまっすぐなボーカルが重なり、余計な装飾をそぎ落としたような音像が立ち上がる。激しさよりも“確かさ”が際立つサウンドで、聴く人の心を穏やかに支えてくれるようだった。

1998年という節目の年、B’zは第13回日本ゴールドディスク大賞(発表は1999年)でアーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞し、この『HOME』でソング・オブ・ザ・イヤーにも輝く。勢い任せのヒットではなく、“聴かれ続けた結果”を象徴する受賞だった。

“いつものB’z”ではない、丁寧であたたかな音

『HOME』の魅力は、ロックユニットのイメージを強く持つB’zが、音を削ぎ落とすことで生まれた新しい輪郭にある。疾走感や攻撃的なビートとは少し距離を置き、ミドルテンポでじっくりと響かせる構成。パワフルさではなく、“しずかな熱”を帯びた歌声が、どこか日常の景色へ溶け込んでいく。

強さを前に押し出すのではなく、寄り添うようなやわらかな手触り。聴きながら思わず深呼吸したくなるような“余白”が、この曲の大きな魅力だ。

時代を越えて確かめられた“変わらない想い”

『HOME』の存在が改めて強く刻まれたのは、2020年4月のことだった。世界が不安に包まれ、人々が外へ出ることさえためらうようになったあの春。B’zは公式YouTubeチャンネルで、松本孝弘と稲葉浩志がそれぞれの自宅スタジオで収録した二人だけによるセッション動画を公開した。

あのシンプルな演奏と声。時代が変わっても変わらない距離感に、胸の奥がそっとあたたまるような感覚を覚えた人も多かったはずだ。“帰りたい場所は、いつでもここにある”という、静かなメッセージが確かに鳴っていた。

この曲が私たちに残したもの

1998年の夏、忙しさや不安を抱えながらも、心の中にだけは“帰る場所”を求めていた時代。その空白にすっと染み込むように『HOME』は届いた。

派手ではない。語りすぎもしない。ただ、そばにいてくれるような音。

だからこそ今でも、ふとした瞬間に聴き返したくなる。あの頃の自分も、今の自分も、包み込むように肯定してくれる。そんな優しさと強さを併せ持つ一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。