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27年前、バラエティ番組から生まれた“奇跡の110万ヒット” 素朴さが大ヒットに導いたワケ

  • 2025.12.16
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2024年、映画『まる』完成報告イベントに出席した堂本剛(C)SANKEI

「27年前、あの夏の夕暮れって、どんな匂いがしていたっけ?」

湿った風がゆっくりと街を抜け、どこか柔らかな色が空に滲んでいた1998年の夏。テレビをつければ、誰もが笑いながら音楽を楽しむ番組が夜を彩っていた。

その空気に寄り添うように、そっと胸の奥をほどいてくれる一曲があった。

KinKi Kids『全部だきしめて』(作詞:康珍化・作曲:吉田拓郎)――1998年7月29日発売

発売から4週連続でランキング1位を記録し、最終的には110万枚以上のセールスへと到達した大ヒット曲。ふたりが出演していたフジテレビ系音楽バラエティ番組『LOVE LOVE あいしてる』のテーマソングとしても親しまれ、当時の街にも家庭にも、やわらかい明るさを広げていった。

そっと肩に触れるような“拓郎メロディ”の魔法

KinKi Kids(現・DOMOTO)にとって4枚目のシングルとなる『全部だきしめて』は、吉田拓郎が作曲を手がけたことでも大きな話題を呼んだ。

フォークシーンのレジェンドが生み出した旋律は、肩の力が抜けた温度を保ちながらも、どこか“素朴な強さ”を内側に秘めている。

そのメロディに、康珍化による優しい言葉が重なることで、曲全体がまるで“誰かの気持ちを受け止める手”のように広がっていく。

流行に寄りかからず、ただ真っ直ぐに温度を伝えるこの姿勢こそが、多くのリスナーの心をそっと和らげたのだ。

また、番組『LOVE LOVE あいしてる』で拓郎とKinKi Kidsが音楽を通じて関係を深めていった空気感が、そのまま楽曲の背景として存在している。テレビの向こうで交わされる笑顔や会話までもが、この曲を聴くたびに思い出されるような、不思議な近さがあった。

“ふたりの声”が生んだ、まろやかな一体感

堂本光一と堂本剛、ふたりの声は質感が異なるのに、重なり合った瞬間に不思議な調和を生み出す。この曲では、とくにその“混ざり合う瞬間”が魅力として際立つ。

押しつけるような強さではなく、どこまでもナチュラルな優しさで作られたユニゾン。張り上げず、飾り立てず、それでいて確かに胸に届く歌声。

“ただ隣にいるだけで、気持ちが軽くなる”ような温度感。この曲が持つ包容力は、まぎれもなく1998年のJ-POPシーンの中でも特別な存在だった。

時代に必要とされた“寄り添う光”

1998年、音楽シーンはダンスミュージックやハイエナジーな楽曲が勢いを増していた時代。そんな中で『全部だきしめて』は、一歩引いたところからそっと灯りをともすように存在していた。

吉田拓郎らしいアコースティックな温かさと、KinKi Kidsの現代的なポップセンスが交差したとき、そこに生まれたのは“懐かしさ”と“新しさ”が同時に揺れる独特の世界観だった。

番組と共に曲が育ち、リスナーの日常にも自然と溶け込んでいく。その積み重ねがロングセールスへとつながり、結果として110万枚を超える代表曲となった。

今も色褪せない、“誰かの心を抱きしめる曲”

時代が変わっても、この曲を聴くと当時の空気がふっと蘇る。

真夏の夜風。笑い声の絶えないテレビ番組。ふたりの若さと眩しさ。そして、その背景でゆるやかに流れていた穏やかなメロディ。

忙しさに追われる今だからこそ、“少し休んでいいよ”と言われているように感じられる瞬間がある。

その優しさは、1998年の夏だけでなく、今を生きる私たちにもそっと寄り添ってくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。