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20年前、人気アイドルがセルフプロデュースした応援歌 あえて「がんばれ」を言わないワケ

  • 2025.12.4
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※Google Geminiにて作成(C)SANKEI

「20年前、冬の街を駆け抜けていた音って、どんなだったっけ?」

2005年12月。少し冷たい風がビルの隙間を抜ける季節。学生たちは厚手のコートを揺らしながら学校へ急ぎ、社会人は年末進行の慌ただしさを抱えたまま駅へと吸い込まれていく。そんな“あわただしい冬の気配”の中で、ふと耳に飛び込んでくる曲があった。軽やかで前向きで、でもどこか芯が強い。そんな冬の空気を少しだけ温めるようなメロディだ。

TOKIO『明日を目指して!』(作詞・作曲:長瀬智也)――2005年12月7日発売

ベネッセコーポレーション「進研ゼミ」CMソングとして広く知られたこの曲は、TOKIOのシングルとしては初のセルフプロデュース作品でもあった。冬の街に響いた明るいビートは、当時の空気にそっと寄り添いながら、多くの人の背中を押していた。

楽曲が刻んだ、ひとつの“節目”

『明日を目指して!』がリリースされた2005年、TOKIOはすでに国民的バンドとしての存在感を確立していた。ドラマやバラエティ、音楽番組と、幅広いフィールドで活躍する姿は、“万能型グループ”の象徴だったといっていい。そんな中で放たれたこのシングルは、長瀬智也が作詞・作曲を手がけ、さらに編曲は長瀬と船山基紀が共同で担当するという、これまで以上に“バンドとしての意思”が明確に刻まれた1曲になった。

セルフプロデュースという選択は、華やかな実績に甘えず、音楽的な挑戦を続ける姿勢の現れでもある。誰かに決めてもらうのではなく、自分たちの音を自分たちで作り上げていく。その感覚が、この曲の軽やかさの奥にある“芯の強さ”を生んでいる。

まっすぐで、あたたかい。TOKIOらしさが光るサウンド

楽曲は力みすぎないロックサウンドを軸に、透明感のあるコード感と、冬の空気に似合う軽快なリズムが心地よく重なる。イントロからグッと引き寄せるギター、広がりのあるバンドアンサンブル。その躍動に合わせるように、長瀬のボーカルはどこまでも真っ直ぐだ。

“がんばれ”と押しつけるのではなく、となりを並走するように寄り添う優しさ。それこそがTOKIOらしさだ。バンドサウンドの温度感が前へと歩み出す気持ちを自然に引き上げてくれる。進研ゼミのCMで響いたとき、教室やリビングでこの曲を聴いた多くの人が、ふと未来を想像していたのではないだろうか。

冬はどうしても気持ちが内側に閉じこもりがちになる季節だが、『明日を目指して!』の明るい風は、その閉じた扉を軽くノックしてくれる。前向きだが押しつけがましくない、その絶妙なバランスが長く愛される理由だ。

背景に宿る、制作陣とTOKIOの確かな信頼

編曲に名を連ねる船山基紀は、数多くのヒット曲を生み出してきた日本のアレンジャー界の重鎮。彼が持つ壮大なスケール感と緻密なアレンジ力は、長瀬の作り上げたメロディにさらなる広がりを与えている。

セルフプロデュースといっても、孤立した制作ではない。信頼するアレンジャーと共に研ぎ澄ませていくことで、バンドの方向性がより明確になった。バラエティで見せる明るさや飾らない魅力とは別に、“音楽に本気なTOKIO”の姿が色濃く刻まれた作品といえる。

この年、TOKIOは『第56回NHK紅白歌合戦』にもこの曲で出場。冬の国民行事の場で堂々と披露されたパフォーマンスは、“自分たちの音で勝負する”という決意表明のようでもあった。

冬の匂いとともに、思い出す曲

あの頃を思い返すと、年末の街はどこか焦燥感と希望が入り混じっていた。イルミネーションの光も、白い息も、学校の帰り道の気配も、全部が未来へと伸びる途中の景色だった。

『明日を目指して!』は、そんな冬に寄り添いながら、心を少し前へと押し出してくれる。20年経った今でも、この曲はあの冬の温度をそのまま閉じ込めている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。