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【更年期体験談】執着を手放すことで見えた新境地

  • 2025.11.4

失うものはもう何もないから

「自分なりの死生観に行きついて、ようやく前を向いていけるようになりました」

山藤陽子さんは、2年前に一人娘を亡くした。いわゆるコロナ禍が過去の出来事となったかのようになった夏、「それまでとても元気に過ごしていたのに……」
突然のことだった。

「ちょうど、親の見送りを経て、自分自身の健康など、これまでとは違うライフステージに入っていくのだと感じていたころでした。でも、まさか娘が先に旅立つとは、まったく、1ミリも思っていませんでした」

思考が止まり、眠れない日々が続いた。
「すべてを終わりにしたくもなりましたが、これで私がダメになって、何もできない人になっては、娘が悲しむと思って」

そんな中、娘さんが小学生のころから一緒に暮らしていたキジトラ猫のモカが病気になった。24歳と高齢だったが、病気らしい病気はしたことがなかった。

「私が泣いてばかりいるからかも、と感じました。そしてモカの看病をしながら、自分でできる植物療法を思い出し、自然とはじめていました」
5か月後モカを見送った。
まったくの一人になった陽子さんは、2024年の夏ごろ、「自分なりの死生観」を得る。

「誰にでも何にでも平等なのは、いつか生を終えるということ。娘はその大切な期間を選んで私の元へ来てくれた。私の人生の残りがどのくらいあるかわからないけど、しっかりまっとうしなくては、と腑に落ちました」

リリースして心が自由に

今の住まいは小さいけれども大空に窓が開けたマンションの一室が見つかった。
これまでしていた自宅ショップの仕事はたたんだ。

私たちが取材で訪れたときには、「狭いでしょ、こんなところにお呼びして申し訳ないわ」と言いながら、広い空に面した窓辺に案内してくれた。

「年齢を重ねると、パートナーをはじめとする人間関係や、仕事、家やモノなどいろいろと増えてきて、すべてに執着がつきますよね。それを手放すことはなかなかできませんが、この2年間で人間関係も仕事もシンプルになって、心が自由になった気がします」

陽子さんが長らくともに暮らしてきたビンテージ家具や作家ものの器も、ほとんど手放した。

「終活という訳でもないんですけど。物をリリースしていくうちに『時』のことにも気づきました。時は有限です。今この時でさえ、ご一緒している時間もカウントダウンですよね」

肌触りのいい布を敷いたベッドソファー、自家製を超えた出来栄えのクッキーと美しい寒天フルーツや豆乳野菜スープ、使い慣れた器でサーブされる香り高いお茶。

陽子さんの日常生活のワンシーンをともに過ごしながら、暮らしの心地よさに酔うような、以前の予約制のお店を彷彿とさせるおもてなし。
しかし、陽子さんは新しいフェーズに立とうとしている。

「すべてをなくした人にしかできないことをしていこう。物理的な執着がないのなら、それを最大限いかしてみようと。二拠点ではなく、移住でもなく、どこでも暮らせるということで、この場所を拠点として、毎年拠点をかえて旅するように暮らすのもよいかと思っています」

悲しみを癒やすために使ったフラワーレメディーが、スイートチェストナットとスターオブベツレヘムの2 種。

「おもてなし好き」な陽子さんは、まるで自分をもてなすように日々の食事やスイーツも作っている。

年齢を重ねると感覚が敏感になる

ライフスタイルコーディネーターとして、日用品を紹介してきた陽子さんは、年を取ってお金に余裕ができたから、上質なものを選ぶのではないと言う。

「肌が弱ってきたからでもないですよね。感度が鋭くなってきたから、気持ちのいい素材でないと身につけられない。天然素材だからいいというわけではなくて、肌触りがいいものが天然素材だった、ということ。食べ物も体が欲するおいしいものを少量食べるようになりますよね」

この「気持ちいい」感覚が「魂の乗り物である体」を大切にすることにつながる。

「このマンションはビンテージでとても古いのですが、共有部分もメンテナンスや掃除が行き届いていて、とても気持ちがいいんです。体も同じで、ビンテージマシーンだなって思います。クセも含め、どういう具合にもっていくのがいいのかと、ケアをして気持ちよくしてあげれば、長く魂の乗り物として動いてくれるんじゃないかしら」

オーガニックとか、日本製とかとカテゴライズせずに、自分自身の感覚に向き合ってきた陽子さん。その言葉には、しなやかな説得力がある。

更年期は必ずあるものだから受け止める

陽子さんも50代の前後には更年期のような症状があったという。

「若いときに、年上の女性たちがイライラしている理由を、更年期のせいにしているのを聞いて、自分はそういう言い訳はしないと誓ったの(笑)。私も50歳のころには、苦しかったりしんどいこともあったけど、通り過ぎていきましたね。ちょうどフリーランスで仕事を始めたころでした」

更年期も老年期も必ずくるものだから、それを受け止めていく。

「更年期のころは、まだ40代と同じような体力で、自分から出していくエネルギーが強かった。今は、受け取ることができるようになってきたと思います。年をとって感度が上がるのもそうですね。合成のものがダメとかそういうこともなくて、その方にあったケアをご自分の感覚で見つけていけばいいのではないかしら。ただ、植物は偉大ですね。人間が作るものとは違う響き方があるのは確かです」

だから、陽子さんのオリジナルブランドSCENT OF YORK.の香水は、植物原料だけで調合されている。「自分を包むすべてをキモチよいもので満たす」究極の表現だ。

50代での独立、そして今は60代の大転換の中にいる。

「私がすることで喜んでくださる方がいれば、それを続けていきたい。『香り』としてメッセージを届けたいです。パフュームのクリエーションも兼ねて、植物たちの声を聞き、匂いを感じて、旅をしながら形にする、そういう生活を試してみようと思っています」

朝のひと時、ゆったりベランダでコーヒーを飲む時間は至福の時。「『ご自愛』って自分に言ってあげていいと思うんです。
体は変化していくので、それに合わせたチューンナップも必要ですね」。
以前はしっかり走って泳いで、時々「暗闇ボクシング」などをしていたが、今は巡りをよくするために、朝のウォーキングと週に一度の酵素浴に切り替えた。

〜私を支えるもの〜

「好きな香りを纏うことは、自由で理想的な世界に心をトリップし、自分を解放するのにとても大切な役割を担います」。
100%天然香料の香水「SCENT OF YORK. (セント オブ ヨーク)」は、心地よさや気持ちよさを追求する陽子さんの究極の表現。
自らも香りによってインスピレーションを得ているそう。

「心と体とお肌は常にやわらかく」がモットーという陽子さん。素肌に触れるものにもこだわって、メリノウールの下着やクッションカバー、寝具などを愛用している。「メリノウールはセカンドスキンです。
湿気を放って、さらっと暖かく、抗菌防臭効果もあります。メリノは、丈夫で、機能的な繊維です」

たくさんのものを手放したが、調理器具だけは手放さなかったという。
そして一人暮らしに新たに迎えたのが、このシロカの豆乳メーカー。

一人暮らしだが、日々の食事は自分で用意したいから、「これで大豆入りの野菜スープを作ります。操作も簡単で愛用しています」

撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里

※大人のおしゃれ手帖2025年8月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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