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20年前、アイドルを脱した“まぶしい衝動” タイトルに似合わない“疾走系ラブソング”

  • 2025.11.22

「20年前の冬、あの街のネオンの下で、どんな音が鳴っていた?」

2005年、クリスマスを控えた夜の街。ガラス越しに響くビート、ブーツのヒールがリズムを刻む。携帯の着信音すら、音楽と混ざり合っていた時代。そんな季節に、BoAはまばゆいほどのスピードで恋の鼓動を鳴らした。

BoA『抱きしめる』(作詞:渡辺なつみ・作曲/編曲:原一博)――2005年11月23日発売

電飾のように瞬くシンセと、跳ねるビート。シンプルなタイトルに似合わないほど、激しくきらめくダンスナンバーだった。

都会の夜を駆け抜けるサウンド

この曲は、BoAの18枚目のシングルとしてリリースされた。ここではリズムで魅せる“エレクトロ×R&B”で魅せてくれた。原一博によるサウンドは、ストレートな4つ打ちにシャープなサウンドを重ね、まるで疾走する光の粒のように展開していく。

サビに向かって高揚していく展開は、クラブサウンド的でもありながら、メロディラインにはJ-POPらしいキャッチーさが残る。華やかで、でもどこか切ない――それが2000年代半ばのBoAサウンドの真骨頂だった。

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2005年、コーセー化粧品「Fasio」の会見に登場したBoA(C)SANKEI

恋の衝動と孤独を同時に描く詞の世界

作詞を手がけた渡辺なつみは、女性心理の描写に長けた名手。『抱きしめる』では、恋の瞬発力と不安定さを、リズムの流れに乗せて軽やかに描いている。直接的な愛の告白ではなく、心が先に走り出してしまう焦燥がある。

それは、BoAの、等身大の感情にも重なっていた。英語フレーズを織り交ぜながらも、日本語の響きを大切にする歌詞構成は、彼女の多国籍な背景を自然に反映している。

つまり、“海外っぽい”のではなく、“BoAそのもの”の音楽。そのバランス感覚が、当時のJ-POPの中で異彩を放っていた。

“踊るアーティスト”から“魅せるアーティスト”へ

この曲の振り付けは、BoAの高い身体能力を前面に押し出したスピーディなダンスが印象的。ステージ上では、長い脚線美とブレない軸で繰り出されるターンが、楽曲のスピード感をさらに増幅させていた。

まるでサウンドと身体が一体化しているようなパフォーマンス。その完成度は、単なる“歌って踊るアーティスト”を超え、音楽を「空間ごと支配する表現者」へと進化した瞬間だった。

この頃から、BoAは“アイドル的存在”ではなく、リスナーがリスペクトする“アーティスト”として確立されていく

冬の夜を照らした、まぶしいビート

『抱きしめる』は、“疾走と情熱が共存するBoA像”を決定づけた一曲といえる。冬の街で聴くと、光が跳ねるたびに心も動く。恋のきらめき、夜の冷たさ、そして少しの孤独――すべてがこの一曲の中で共鳴していた。

20年前の冬、BoAが鳴らしたのは“温もり”ではなく“火花”だった。その熱は、今も記憶のどこかでまぶしく瞬いている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。