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アディソン・レイからご指名も。乙女心をくすぐるルシラ・サフディのダーク&ガーリーな世界観【若手デザイナー連載】

  • 2025.10.5

アルゼンチン人デザイナーのルシラ・サフディ(LUCILA SAFDIE)のスタジオがあるのは東ロンドン、ハックニー・ウィックにあるとある倉庫。その入り口には、アメリカの作家ジョーン・ディディオンによる1984年の小説『Democracy』からの引用が綴られている。スタジオに一歩足を踏み入れると、まるで自分のインターネット上のアーカイブをスクロールしているような気分になった。壁にはファッション写真のほか、『ピクニックatハンギング・ロック』(1975)のスチール写真、若かりし頃のニコール・キッドマンの写真などが貼られていて、スピーカーからはケイト・ブッシュの「嵐が丘」が鳴り響いている。デザイナー自身も、90年代から抜け出してきたかのような出立ちだ。欠けた爪にひび割れた唇、くったりとしたバレエシューズ。「いつも着ている服があって。ブランディ・メルヴィルのカーディガンなんですけど」とサフディ。「一日に決断できることは限られているって言いますよね。脳には限界があるって」

そんなユニークな世界観の持ち主である彼女が2026年春夏シーズン目を向けたのは、ツァーリ時代ロシア(ロシアの「ツァーリ」(君主)が支配した歴史的期間)だった。「Imperial Sadness」と名付けられたコレクションのインスピレーションとなったのは、運命に翻弄されたロマノフ姉妹。「ロマノフ王朝の末娘アナスタシア(・ニコラエヴナ)の記事を目にし、非常に若くしてこの世を去ったという事実に取り憑かれました」とデザイナーは話す。「大金持ちだったにもかかわらず、姉妹が同じ部屋に住んでいたという点にも興味が湧きました。とても仲がよく、離れることができなかったのでしょうね。彼女たちはいつまでも大人になることができず、こうして今も(歴史的な)アイコンとして凍りついたままなのです」と彼女は続ける。「それは悲運であり、宿命であり、少女時代、そしてシスターフッドの象徴。私がとらえたいものすべてなのです」

運命に翻弄された女性たちは、サフディのスタジオのいたるところに飾ってある。マリリン・モンローもそのひとりで、彼女のポスターがスタジオを見守るように掲げられていた。「デヴィッド・リンチの引用で、“すべてはモンローについてだ”といったものを目にしたんですけど、確かにそうかもしれません」とサフディ。「リンジー・ローハンは、現代版モンローのよう。一時は“道を外した女の子”のように取り上げられてましたが、今、再評価されています。彼女がカムバックを果たしているのがうれしい」

サフディの作品は現代のポップカルチャーにも影響を与えており、最近はラナ・デル・レイのツアーで前座を務めたアディソン・レイに衣装を提供したそうだ。彼女は笑いながら、こう振り返る。「メールの件名には『アディソン:ラナのツアー』とだけ書かれていて、『待って、何が起こっているの?』って感じでした。それに私たち、ラナのお父さんを見たんですよ! 私たちのすぐ隣に立っていて。嘘でしょって思ったけど、あれは絶対ロブ・グラントだったと思う。とにかく感激しましたね。インターネットの世界が現実になったみたいでした」

「歴史的なものとパーソナルなものが混在しているのが好き」と話すサフディの作品にはどこかダークなムードも漂うが、彼女の思い描く女性像は至って健全だ。「キュートだけどセクシーすぎず、ホットだけどナチュラルでもある。すごくすてきに見えるのに、動きにくくて不快な思いをするほど、最悪なことはないでしょう」。こんな彼女の想いが、多くの女性たちの心を掴んでいるのかもしれない。

Text: Olivia Allen Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUE.CO.UK

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