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30年前、CMからお茶の間に広がった“やさしすぎるメロディ” 時を越えて寄り添い続ける“永遠のラブソング”

  • 2025.11.9

「30年前の秋、街の音が少しだけ静かになった気がしなかった?」

1995年。人々の心がゆっくりと日常を取り戻そうとしていた頃、にぎやかだった90年代の空気の中で、ふと立ち止まりたくなるような、やさしい音があった。

小沢健二『さよならなんて云えないよ』(作詞・作曲:小沢健二)――1995年11月8日発売

森永製菓「ダース」のCMソングとして流れたその旋律は、テレビの向こうから、まるで誰かのつぶやきのように届いた。華やかな時代のすぐ隣で、この曲は“静けさ”という名のやさしさを、そっと教えてくれた。

静けさの中で光った“オザケンのやわらかさ”

この曲が発表された頃、小沢健二は『ラブリー』や『強い気持ち・強い愛』といったヒットで、すでに“時代の寵児”として注目を集めていた。だが『さよならなんて云えないよ』には、それらとは違う空気があった。華やかさよりも、包み込むような静けさ。リズムよりも、ことばの余白が際立つやさしさ。

アコースティックギターを中心としたシンプルな編成。そこにベースや軽やかなグロッケンやエレピが重なり、まるで冬の朝の光のように淡く広がっていく。このサウンドメイクは、オザケンが当時追い求めていた“都会の詩情”そのものだった。彼の声は、張り上げることなく、語りかけるように流れていく。

“別れ”というテーマを扱いながらも、悲しみよりも“受け入れるあたたかさ”が先に来る。そこに、小沢健二というアーティストの誠実さが滲んでいた。

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1996年、日本武道館でコンサートをおこなった小沢健二(C)SANKEI

“CMソング”を超えて、人の記憶に残った理由

森永「ダース」のCMで流れたこの曲は、わずかな秒数にもかかわらず、多くの人の記憶に深く刻まれた。どんな時代でも、誰かの日常に静かに寄り添う。それがこの曲の強さだった。

メロディは極めて穏やかで、急な展開もない。それでも聴くたびに心が動くのは、彼の作る“音と言葉の距離”が絶妙だからだ。あえて説明しすぎない歌詞の構成が、聴く人それぞれの情景を呼び起こす。この表現こそ、1990年代中盤のポップスにおける新しい感性の象徴でもあった。

“やさしさ”が時代を超えた

この曲はリリースから20年以上を経た今でも、さまざまな場面で甦っている。2016年には大塚製薬「ポカリスエット ゼリー」のCMで、女優・吉田羊と鈴木梨央がカバー。親子のような温かいやり取りとともに、あのメロディが再び日本中を包んだ。

リリースから長い時を経ても、この曲が選ばれ続ける理由。それは“心の温度”を描いているからだろうか。時代が変わっても、人が誰かを思う気持ちは変わらない。そのとき、そっと寄り添うように流れてくるのがこの曲なのだ。

音楽が「癒し」という言葉で語られ始めた時代に、彼はそれを“理屈ではなく、音のぬくもり”で実現してみせた。小沢健二というアーティストが時代を超えて愛される理由が、この1曲には凝縮されている。

冬の街を歩くとき、どこかでこのメロディを思い出す人も多いだろう。それは、誰にでもある“言えなかったさよなら”を、そっと受け止めてくれるから。この曲が流れるたび、僕らは心の中でまたひとつ「オッケーよ」とちいさくつぶやく。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。