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25年前、プロが称賛した“派手さはないのに記憶に刻む”ささやきソング じわじわ侵食し忘れられないワケ

  • 2025.10.26

「25年前、君の夜はどんな匂いだった?」

乾いた風が肌をかすめ、電車のブレーキが遠くで鳴く。街はデジタルの光を増やしながらも、まだどこかに“手触りの静けさ”を残していた。そんな秋の気温が少しずつ落ちる頃、ひっそりと流れ始めた歌がある。

キリンジ『エイリアンズ』(作詞:堀込泰行・作曲:堀込泰行)――2000年10月12日発売

大声で自分を主張しないのに、耳の奥でいつまでも残響する。 その“静かな存在感”ゆえに、この曲は少しずつ届き、やがて長い時間をかけて名曲の座に辿り着いた。

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※Google Geminiにて作成(イメージ)

ささやきのポップが切り取った、同時代の空気

兄・堀込高樹と弟・堀込泰行のユニット=キリンジは、ジャズやソウル、AORの滋味を日本語ポップに落とし込んできた。

『エイリアンズ』は3枚目のアルバム『3』に先行して発表されたシングルで、冨田恵一のプロデュースのもと、アコースティックギター中心に、様々な音が物語を紡ぐようにアンサンブルを奏で、都市の夜に潜む“冷たいぬくもり”を描き出す。派手な装飾を削ぎ落とした音の配置と、声の息づかいまで届く録音が、曲の核心を際立たせている。

当時はチャートの頂点を争うタイプではなかったが、耳の良いリスナーや店頭、深夜ラジオを起点に静かに支持が広がっていく。「すぐに流行って忘れられる曲」とは真逆の動線で、一歩ずつ記憶の奥へ沈んでいった。 その後の“時間差の評価”こそ、この曲の物語だ。

なぜ“あとから効いてくる”のか

理由のひとつは、歌とメロディの距離感。堀込泰行のヴォーカルは感情を押しつけず、情景を淡々と置いていく。旋律はなだらかに上り下りしながら、要所で半拍の“間”をつくる。言葉と音のあいだの空白が、聴き手それぞれの記憶を呼び寄せる。

もうひとつは、視点の独自性だ。華やかな中心でもなく郊外の郷愁でもない、どこでもない“あいだ”の風景――その曖昧な場所をロマンティックへ変換する眼差しが、この歌の普遍性を支えている。

レビューと批評が積み上げた再評価の軌跡

2010年代後半以降、ネットのレビューや批評企画がこの曲を継続的に語り直した。プロミュージシャンたちが選ぶ大型ランキング企画では、名曲としてたびたび高順位に入り評価が可視化される。制作の目線で聴くほど、編曲と歌の呼吸の良さが際立つのだ。

専門メディアの特集でも存在感は増した。音楽誌のランキングでも上位選出。長いスパンでJ-POPの地層を見渡したときに、この曲が“時代を超えて機能する”ことがあらためて確認された。

いま聴いても、夜は同じ色をしている

『エイリアンズ』は、特定の物語を語りすぎない。だからこそ、聴き手の“あの頃”が自然に呼び出される。スマホの光が街を満たした現在でも、窓ガラスに映る自分の横顔と遠くのテールランプ――あの夜の色は、きっと変わっていない

音を削り、言葉を抑え、余白に情感を託す。そんなささやかな方法で、この曲は25年を生き延び、いまも誰かの夜をやさしく照らしている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。