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25年前、日本中を開放した“ジャンルに縛られない”自然体ソング 声を楽器にした“無重力ボイス”

  • 2025.10.27

2000年の秋、街にはまだ“新しいミレニアム”という言葉の余韻が漂っていた。クラブカルチャーとポップスが交差し、音楽のスタイルが劇的に変化していく時代。そんな流れの中で、都会の喧騒の隙間を抜けるようにひとりの女性の歌声が、自由の匂いをまとって響いた。

bird『マインドトラベル』(作詞:bird・作曲:大沢伸一)――2000年11月22日発売

アルバム『MINDTRAVEL』と同日リリースされたこの曲は、タイトルチューンとして作品全体のテーマを象徴していた。birdの澄んだ声と、大沢伸一による洗練されたトラック。ふたりの感性が交わったその瞬間、J-POPという枠を軽やかに飛び越える音楽が生まれた。

静けさと躍動が共存する“2000年の空気”

当時の音楽シーンは、海外のクラブシーンの影響が浸透しはじめていた。だが日本では、まだそれらが“サブカルチャー”として扱われることも多かった。birdがデビューから掲げていたのは、そんな壁を壊すような“自然体の音楽”。

『マインドトラベル』では、浮遊感のあるリズムが心地よく身体を包む。静けさと躍動が共存する不思議な感触。そこにbirdのスモーキーな声が乗ることで、まるで音の粒子がひとつの感情を描くような立体感が生まれた。

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bird-2008年撮影(C)SANKEI

大沢伸一が描いた“音の景色”

プロデューサーの大沢伸一は、MONDO GROSSOとしてすでにクラブシーンで確固たる地位を築いていたプロデューサー。ジャズ、ハウス、R&Bを縦横無尽に横断しながら、“ジャンルではなく空気で聴かせる”音を作り上げることで知られていた。

『マインドトラベル』もまた、その哲学が息づいている。サウンドはミニマルだが、音の余白に豊かなグルーヴが宿り、聴くたびに新しい発見がある。birdの歌がただのヴォーカルではなく、“ひとつの楽器”として曲に溶け込んでいくような構成も、大沢のセンスならではだった。

birdという存在の自由さ

birdの魅力は、ジャンルを決めないことにある。ソウルフルでもあり、ジャジーでもあり、時にフォーキーでもある。『マインドトラベル』では、そのすべてが自然に混ざり合っている。

彼女の歌い方には、技巧的な派手さではなく、“呼吸のままに歌う自由”がある。だからこそ、聴く人はどんな瞬間にも自分の感情を投影できる。アルバム『MINDTRAVEL』は、クォーターミリオン(25万枚)を記録する。

“旅”のように続く音楽

この曲のタイトルにある「トラベル」は、単なる旅ではない。音楽を通して“心がどこまで行けるか”という問いでもあるように思う。birdの音楽は、リスナーを遠くへ連れていくのではなく、むしろ内側へと導いてくれる。

忙しない日常の中で、ふと立ち止まり、自分の心の声を確かめるような、そんな感覚。

25年経った今でも、この曲を聴くと不思議と心が軽くなる。時代のトレンドを超えて、「自分のままでいていい」と優しく肯定してくれるような温度がある。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。