1. トップ
  2. 32年前、50万枚ヒット→紅白初出場の“カワイイのに痛烈な”怒りソング 感情の拳で殴る“本音のロック”

32年前、50万枚ヒット→紅白初出場の“カワイイのに痛烈な”怒りソング 感情の拳で殴る“本音のロック”

  • 2025.10.26

「32年前、“本音で叫ぶ女の歌”が、どれほど衝撃だったか覚えてる?」

1993年の秋。バブルが終わり、世の中がようやく現実を見つめはじめた頃。街には“頑張る女性”という言葉が少しずつ増えていた。そんな中、“強くて、可愛くて、怒ってる女”をロックサウンドに乗せて歌ったのが、久宝留理子のこの曲だった。

久宝留理子『「男」』(作詞:久宝留理子・作曲:伊秩弘将)――1993年9月22日発売

三貴「カメリアダイアモンド」CMソングとして流れ、あのインパクトあるイントロとともに、街の空気を一気に変えた。結果、ハーフミリオン(50万枚)を突破する大ヒットを記録し、同年の『第44回NHK紅白歌合戦』へ初出場を果たした。

叫ぶのではなく、ぶつけるように

久宝留理子がこの曲で放ったのは、いわゆる“女性の叫び”ではない。もっと生々しい“感情の拳”のようなものだった。

彼女自身が手がけた歌詞には、恋愛や社会に向けた「本音を我慢しない女性像」が刻まれている。それは、当時のポップシーンにおいて極めて異質で、だからこそ新鮮だった。

作曲は伊秩弘将。後にSPEEDなどを手がけ、90年代を代表するメロディメーカーとなる彼が、この時期すでに“時代の先”を見据えていた。キラキラしたポップさと、どこか焦燥を帯びたコード進行。その中に、久宝の直情的なボーカルが突き刺さる。

さらに編曲を担当したのは是永巧一(ex.レベッカ)。ギターの切れ味とドライブ感が加わることで、楽曲全体にロックの躍動感と緊張感が生まれた。

undefined
久宝留理子-1994年撮影(C)SANKEI

ロックでもポップでもない“現実の女の音”

当時の女性シンガーの多くは、恋を可憐に歌うか、あるいは強がりを装うかのどちらかだった。だが久宝留理子の『男』は、そのどちらでもなかった。彼女が放つ言葉には、「もう我慢なんてしない」という明確な意思があった。それは怒りでも悲しみでもなく、等身大の“生き方”そのものだったのだ。

ロックサウンドにのせて、彼女の声は感情の揺らぎをそのまま刻みつけていく。メロディはキャッチーなのに、聴いた後には妙な重みが残る。それが『男』という曲の最大の魅力だった

表面的には明るく、でもどこか張り詰めた緊張感を漂わせる。「楽しいのに苦しい」という感情を、ここまでリアルに鳴らした女性アーティストは、当時ほとんどいなかったかもしれない。

“本音”を武器に変えた女性シンガーの時代

この曲のヒットをきっかけに、久宝留理子は“強い女の代弁者”として注目を浴びる。CMやテレビ番組で彼女の力強い声が流れるたびに、「こういう女の人になりたい」と憧れる女性たちが増えていった。

それは単なる“キャッチーな歌”の人気ではなく、時代のムードそのものが変わり始めた瞬間でもあった。後に相川七瀬や浜崎あゆみら、感情をまっすぐ表現する女性シンガーが次々と登場していくが、その先駆けに位置づけられるのが、まぎれもなく久宝留理子の『「男」』だった。

風を切るように生きる、その痛快さ

久宝留理子の声は、当時から“飾らなさ”に貫かれていた。技巧的に歌い上げるのではなく、感情のままに声をぶつけるスタイル。だからこそ聴き手は、彼女の歌を“自分の言葉”として受け取ることができたのだ。

ステージでも、彼女は常に全力で歌いきる。派手な演出も、過剰な演技もいらない。ただまっすぐ立って、声で勝負する――その潔さが、聴く者の心を突き動かした。

バブル崩壊後の日本で、“強さ”と“しなやかさ”を同時に見せた女性アーティスト。その原点に、久宝留理子『男』という一曲がある。彼女の叫びは今も、社会のどこかに押し込められた“声にならない気持ち”を代弁し続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。