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「抑うつ」の43歳ひきこもり長男 亡き父の反対で受診できず、症状悪化 社労士が取った“最終手段”

  • 2025.9.16
病気で長年ひきこもる人が受診しなかった場合のリスクとは?(画像はイメージ)
病気で長年ひきこもる人が受診しなかった場合のリスクとは?(画像はイメージ)

筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

浜田さんによると、病気や障害で働くことが難しいひきこもりの人の中には、障害年金の請求を検討するケースもあるということです。ただし障害年金を請求するためには、医師による診療を受け続ける必要があるといいます。

ひきこもりが長期化し、外出が困難となった人にとって、通院を続けることは容易ではないということですが、そのような場合、どのように対処すればよいのでしょうか。浜田さんが、重い抑うつのひきこもりの男性とその母親とのやりとりについて、紹介します。

父親を怖がっていた長男

ある日、私は「長年、自宅にひきこもっている43歳の長男のことで相談をしたい」と、母親(71)から相談を受けました。

母親によると、長男の中川智文さん(仮名)は10代の頃からひきこもっており、20年以上ほとんど外出をしない生活を続けてきました。また、10代後半から、抑うつとみられる症状が生じるようになったということです。

智文さんのひきこもりが長期化する中で、抑うつ状態が悪化。半年前には父親が死亡し、母親は息子の将来に強い不安を感じるようになったといいます。

障害年金では、その障害で初めて医師の診療を受けた日である「初診日」を確認するところから始めます。母親によると、智文さんは今まで精神科や心療内科を受診したことはないとのこと。未受診であることを不思議に思った私は、次のように質問しました。

「今まで受診してこなかったのは、息子さんが受診を拒んでいたからなのでしょうか」

すると母親は首を小さく左右に振りました。

「いいえ、違います。主人(智文さんの父親)は生前、長男が受診することに否定的だったので、長男を受診させることができなかったのです。長男も父親が恐かったようで、本人から『受診したい』といった発言はありませんでした」

どうやら智文さん本人が受診を拒否しているわけではなさそうです。母親が言うには、智文さんは父親と顔を合わせたくないため、自室からほとんど出てこない生活を何十年も続けてきた結果、治療を受けることができなかったということです。

抑うつ状態が出ても初期の頃に適切な治療を受けることができれば、改善する可能性も高いことでしょう。しかし、智文さんは父親の影響もあり、早期に治療を開始することができませんでした。その結果、智文さんは抑うつ状態が重くなってしまったそうです。

そこまで聞き取った私は、障害年金について母親と確認しました。

智文さんはこれから初めて医師の診療を受けることになります。母親によると、智文さんは20歳の頃から国民年金保険料の納付猶予を利用してきたとのこと。すると、初診日には国民年金に加入しているので、障害基礎年金を請求することになります。

障害年金(障害基礎年金および障害厚生年金)は、原則初診日から1年6カ月を経過した日以降に請求することになります。よって、初診後もできるだけ受診を継続する必要があります。

すると母親は不安を口にしました。

「息子は20年以上外出をしていません。もちろん病院には私(母親)が付き添いますが、それでも息子が通院を続けることができるかどうか不安です。何か良い方法はありませんか」

「それならば、訪問診療を受けることも検討してみましょう。この方法ならば、息子さんが外に出ることなく医師の診療を受けることができます。また、息子さんの同意が得られれば、私も障害基礎年金の請求に向けていろいろとお手伝いすることもできます」

「ご協力いただけるのは心強いです。ぜひお願いしたいです。まずは長男に話をしてみて、その結果をご報告するようにします」

母親はそう言いました。

訪問診療のおかげで障害基礎年金の請求が可能に

私との面談後、母親は智文さんに障害基礎年金の話をしました。智文さんは母親の話を受け入れ、精神科医による訪問診療を受けることになりました。そこで母親と私はインターネットで訪問診療をしている病院を探したところ、ひきこもりの人を診てくれそうな病院がいくつか見つかりました。

あとは智文さんと医師の相性が合うかどうかです。しかし、こればかりは智文さんが実際に医師に会って診療を受けてみないことには何も分かりません。そこで各病院のサイトをじっくりと見比べ、智文さんに合いそうな病院を1つ決めました。母親がその病院に連絡し、訪問診療の予約を入れました。

受診当日。智文さんは緊張のあまり体調を崩してしまい、布団に横になったまま自室から出てくることができませんでした。そこで、まずは母親だけが智文さんの自室に入り、横になったままの状態で診療を受けるつもりがあるかどうかを聞きました。すると、智文さんは弱々しい声で「それで構わない」と答えました。智文さんの同意を得た母親は、医師と看護師を智文さんの自室に招き入れました。

このときは初夏で気温はやや高めでしたが、智文さんは冬物の厚手の布団をかぶり、足元には湯たんぽを入れていました。体調が悪いため体温調節がうまくいかず、寒気の症状が出たからだということです。

布団の中で横になったままの智文さんに、医師は「はじめまして。精神科医の佐藤(仮名)です。お体の調子はどうですか」と優しく声を掛けました。

しかし智文さんの目はうつろで、佐藤医師の問いかけにまともに答えることも難しい状態でした。そこで母親が代わりに今までの状況を説明しました。

母親から一通りの説明を聞き終えた佐藤医師は「お子さまの状態は思ったよりも芳しくないようです。入院も検討してみてはどうですか」と提案しましたが、智文さんはそれを拒否。この先も自宅で診療を受け続けることになりました。

そこで当面の間は、週に1回の看護師による体温と血圧などの測定、月に1回の佐藤医師による診療を受けることが決定。幸いにも佐藤医師は智文さんのひきこもり状態に理解を示してくれたため、智文さんは何とか訪問診療を受け続けることができました。その後、母親と私も定期的に連絡を取り合い、情報共有を続けました。

そして初診から1年6カ月が経過した後、私は必要書類を速やかにそろえ、障害基礎年金を請求しました。請求から3カ月がたった頃、母親から障害基礎年金が受給できたとの報告を受け、私はほっとした気持ちになりました。

今回のご家族のように、ひきこもりが長期化したことで外出が困難になってしまうケースも多く見受けられます。障害年金の請求を検討しているのに通院して医師の診療を受けることが難しいときは、訪問診療を受けることも検討してみるとよいでしょう。

社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也

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