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「ほんま元気もらえる」29年後も目頭を熱くさせる“甲子園と共に生きた応援歌” 史上最速優勝へとつながる“魂の登場曲”

  • 2025.9.30

「29年前の夏、あなたはどんな音楽を聴いていただろう?」

1996年の日本。街のCDショップには新譜が並び、ランキング番組や音楽番組が毎週のように話題をさらっていた。サブスクもまだない時代、お気に入りのシングルCDを手に取ることが、音楽との出会いそのものだった。そんな中、真夏の始まりを告げるよう流れてきたのは、心にまっすぐ届くバンドサウンドだった。

LINDBERG『every little thing every precious thing』(作詞:渡瀬マキ・作曲:川添智久)――1996年7月1日発売

LINDBERGにとって通算25枚目となるこのシングルは、バンドとして成熟を重ねたLINDBERGの一つの到達点ともいえる作品だった。30万枚を超えるセールスを記録し、90年代J-POPの黄金期にしっかりと刻まれた存在感を放っている。

あの日の街に響いていたもの

当時のLINDBERGは、デビュー以来「恋」や「青春」といった普遍的なテーマを真正面から歌い続けてきた。『今すぐKiss Me』のような勢いのあるヒットを経て、バンドとしての安定感を手に入れた90年代半ば。渡瀬マキの澄み渡る歌声と、川添智久のメロディが重なる『every little thing every precious thing』には、派手さではなく“確かな温かさ”が宿っていた

バンドサウンドはシンプルで力強く、日常の中でふと気づく小さな幸せを、そのまま音楽に閉じ込めたような一曲。聴く人それぞれが、自分の大切な人や時間を思い浮かべる――そんな普遍性を持っていた

甲子園とともに生きた歌

やがてこの曲は、音楽ファンだけでなく、野球ファンにとっても特別な意味を持つことになる。阪神タイガースでリリーフとして活躍したた藤川球児が、自身の登場曲に『every little thing every precious thing』を選んだのだ。

火の玉ストレートと呼ばれた速球とともに、このイントロが甲子園に響き渡る瞬間。観客は息をのんで立ち上がり、球場全体が一体感に包まれる。それは単なるBGMではなく、勝利への期待を共有するための合図であり、ファンの記憶に焼き付いた音だった。

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2020年11月10日、藤川球児引退セレモニーに登場したLINDBERGのボーカル・渡瀬マキ(右)(C)SANKEI

歴史的瞬間に甦ったフレーズ

そして2025年。藤川は監督として阪神を率いる立場となり、その年のチームは快進撃を続けた。9月7日、甲子園で行われた広島東洋カープとの対戦。プロ野球史上最速となるリーグ優勝が決まったその試合で、リリーフの岩崎優が登板する場面が訪れる。

通常の登場曲ではなく、この日だけ特別に流れたのは――『every little thing every precious thing』。

スタンドは驚きと歓喜に揺れ、球場全体が時空を超えて藤川現役時代の記憶と結びついた。29年前に生まれた楽曲が、甲子園という舞台で再び輝きを放ち、優勝のドラマを彩った

音楽が記憶をつなぐ

発売当時は日常をそっと支え、やがて球界屈指のピッチャー登場曲になり、球団史に残る優勝の瞬間を彩る一曲へ。『every little thing every precious thing』の歩みは、単なるヒットソングの枠を超えて、世代をまたいで人々の心を結びつける“音楽の力”そのものを体現している。

歓声と涙に包まれたあの日の甲子園。過去と現在が溶け合った瞬間、この歌はただのヒット曲ではなく、時代を超えて響き続ける“応援歌”として甦った。誰かを信じ、支え、励ます――その普遍的な力が、29年前と同じように今も胸に響く。

現に令和7年を迎えた今「ほんま元気もらえる」「この歌に励まされました」「本当に神曲!」など評する声も少なくない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。