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「唯一無二のボーカリスト」35年後も息を呑む“破壊的なのに美しい禁断ロック” 20万枚超を売り上げた“再生の一曲”

  • 2025.9.29

「35年前の冬、あなたはどんな音に身を委ねていた?」

1990年1月。街にはまだバブルの煌びやかな余韻が残り、夜の繁華街はネオンとイルミネーションが絶えず瞬いていた。人々は華やかな街並みに酔いしれながらも、心の奥底には漠然とした不安を抱えていた。

そんな空気のただなかで流れてきたのが、耽美で退廃的、そして妖艶な響きを放つ一曲だった。

BUCK-TICK『悪の華』(作詞:桜井敦司・作曲:今井寿)――1990年1月24日発売

メジャーデビュー2枚目のシングルにして、同名アルバム『悪の華』に先駆けてリリースされたこの作品は、ランキング初登場で1位を記録。最終的に20万枚以上のセールスを達成し、BUCK-TICKの人気と存在感を、さらに強固なものとした代表曲となった。

漆黒の音に咲いた耽美の花

『悪の華』を耳にした瞬間、まず感じるのは退廃と美が共存する矛盾した快感だ。切り裂くように鋭いギターリフ、沈み込むようなベースライン、そして重々しいリズム。そこに絡む桜井敦司の低く妖艶なボーカルは、聴く者を抗えぬまま深い闇の世界へと引き込んでいった。

バンド名のごとく、彼らの存在は当時のJ-ROCKシーンに衝撃的な閃光を放った。しかし『悪の華』が特別なのは、ただの爆発力ではなく、その背後に漂う冷ややかな美学だ。のちのヴィジュアル系シーン全体が追い求めることになる「退廃の中の美しさ」の原型が、ここに刻まれていた。

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BUCK-TICKのボーカル・桜井敦司-2003年撮影 (C)SANKEI

映画と詩が織り成した幻想

『悪の華』の歌詞世界は、ジャン=リュック・ゴダール監督の映画『気狂いピエロ』から強くインスパイアされている。その影響は歌詞にも表れており、「狂ったピエロ」というフレーズが登場することで、映画の退廃的で破滅的なムードが楽曲全体に色濃く投影されている。こうして映画的イメージを自らの言葉に置き換えることで、BUCK-TICKは独自の耽美的な世界観を確立したのである。

さらにタイトルは、フランス詩人シャルル・ボードレールの詩集『悪の華』から採られている。謹慎中に読まれていたとされるこの詩集は、破滅の中に咲く耽美の象徴であり、楽曲が描く世界観にふさわしい言葉だった。映画のイメージと詩の象徴を重ね合わせることで、BUCK-TICKは音楽を単なるポップソングの枠を超えた芸術表現へと昇華させたのである。

闇を越えて甦る響き

1987年にライヴビデオ「バクチク現象 at THE LIVE INN」でメジャーデビューを果たすと、1988年にメジャー初のシングル『JUST ONE MORE KISS』(作詞:桜井敦司・作曲:今井寿)をリリースし、日本レコード大賞新人賞を受賞するなど注目を集めていたBUCK-TICK。しかし、翌1989年にメンバーの不祥事によって活動休止を余儀なくされていた。華やかな舞台から姿を消したバンドが、再び戻ってきて放ったのがこの曲だった。

背景を知る人々にとって、この楽曲は単なるシングルではなく「闇を抱えながらも再び立ち上がる」という象徴そのものだった。退廃的であると同時に、そこからの復活を暗示する響きは、ファンの心に強烈な余韻を残した。

美学が遺した余波

『悪の華』のシングルは成功を収め、同時期にリリースされた同名アルバムも高い評価を受けた。ライブでは耽美的な衣装や独特の照明を駆使し、視覚的な演出を音楽と結びつけることで、従来のロックバンドの枠を大きく超えたスタイルを確立した。

結果として、この時期のBUCK-TICKが提示したスタイルは、90年代以降に続くヴィジュアル系の隆盛へと直結していく。美と退廃、闇と光を同時に鳴らす手法は、のちのアーティストたちにとっての道標となった

冬の街に咲いた異端の花

1990年の冬、煌びやかな街の片隅で『悪の華』を耳にした人は、その瞬間に異世界の扉を開いたような感覚を味わったに違いない。ネオンの光と冷たい夜風が交錯する中で、この楽曲は不安や焦燥を映し出しながらも、それを美しさへと変換していった。

『悪の華』は、単なるヒットソングではなく、当時の不安や耽美的な気分を映し出した象徴的な作品である。退廃と再生が織り成すその音は、今もなお多くのリスナーの記憶に鮮烈に焼き付いている。

35年が経った今もなお「唯一無二のボーカリスト」「変わらないカッコ良さ!」「歌詞が凄く突き刺さったなぁ…」など称賛する声が少なくない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。