「現金250万円一括でシエンタに」世帯年収900万女性が愛車ベンツCクラスを“あえて”手放したワケ

メルセデス・ベンツから、トヨタ・シエンタへ。しかも、約250万円を現金一括で。

この選択を聞いて、あなたは何を感じるだろうか。「もったいない」か、それとも「賢明だ」か。

これは単なる節約や車種変更の話ではない。多くの人が気にする「ステータス」や「世間体」といった価値観を、改めて考えさせられるエピソードだ。

10年前にこの決断をしたのは、現在40代のAさん。彼女がなぜ高級車を手放したのか、その選択の裏には、現代における堅実なお金との付き合い方があった。

愛車ベンツを手放し、シエンタが選ばれたワケ

話を聞かせてくれたのは、現在40代のAさん。10年ほど前、当時32歳だった彼女は夫(当時33歳)と幼い子どもとの3人家族で、世帯年収は約900万円。当時の愛車は、メルセデス・ベンツ Cクラスだった。

しかし、チャイルドシートに子どもを乗せる日常が始まると、状況は一変する。かつてステータスであったはずの高級車は、いつしか「不便なこと」の多い存在になっていた。

「当時、子どもはまだ未就学児でした。チャイルドシートが載せやすく、コンパクトで収納も多い車を、と。ドアの間口が広く、床が低くて乗り降りしやすいこと。それが何よりの条件でした」

夫婦で様々な車を比較検討した結果、たどり着いたのはトヨタ・シエンタだった。「大型の高級ミニバンも考えたのですが、今の私たちの暮らしには大きすぎる、と感じて」。

購入を決めたシエンタ。オプションを含めて約250万円という金額を、Aさんは迷うことなく現金一括で支払った。世帯年収900万円とはいえ、決して小さな額ではない。ローンを組んで手元資金を他に回す選択肢もあるはずだ。なぜ、現金一括にこだわったのか。

「250万円くらいなら、ローンを組まなくても大丈夫かな、と。それに、近々マンションの購入も考えていましたから。教育費は別に積み立てていましたし、無駄な金利を払いたくない、という気持ちも正直ありましたね」

そこにあったのは、冷静で、明確な資金計画だった。来るべき大きな支出を見据え、日々のキャッシュフローを健全に保つ。現金一括での購入は、家計や精神面に影響がなかったどころか、「もしローンを組んでいたら、保険や車検など維持費と合わせて大変な月もあったかも」とAさんは振り返る。

世間では大型高級ミニバンが一種のステータスとして人気を集めるが、Aさんは「憧れは全くなかった」と断言する。その価値観の源流は、意外な原体験にあった。

「憧れは全くなかったです。実は父が自動車販売の仕事をしていたんです。だから幼い頃から、いわゆる高級車が身近にある環境で育ちました。そのせいか、逆に車への執着が全くなくて…。快適な移動ができれば、正直、軽トラでもいいとさえ思っています」

多くの人が憧れる対象が「日常」であった時、それは特別な意味を失う。Aさんにとって、高級車は「当たり前」の存在だった。むしろその経験が、車に対する特別な感情を生まなかったのだという。

「車はあくまで移動手段のひとつ。そこに背伸びをするよりも、違うことにお金をかけた方が、人生はもっと楽しくなる。それが私の考え方です」

「車を一括で買ったから、というわけではありませんが、私のモットーは『モノ（所有）よりコト（体験）』にお金をかけること。浮いたお金、というより、そもそも車にかけなかったお金で、国内外の旅行に行ったり、家族でイベントに出かけたり、子どもの習い事に使ったり。そちらの方がずっと価値があると感じています」

最後に「現金一括シエンタ」のデメリットを尋ねると、「ありません！」と即答が返ってきた。

「無理なく現金で払える方なのであれば一括で買っちゃったほうがいいと思います」

高級車への憧れより、日々の実用性。ローンがもたらす見栄より、現金購入がくれる心の余裕。車への投資より、家族との体験への投資。Aさんの選択は、物質的な豊かさから精神的な充足へと向かう、現代の価値観を象徴している。彼女のガレージに停まるシエンタは、ベンツからのグレードダウンではなかったのだ。

世帯年収900万円でも堅実な選択を貫くAさんの姿勢は、車は移動手段に過ぎず、本当に大切なのは家族との時間や将来への備え。そんなメッセージが、ベンツからシエンタへの乗り換えという選択に込められていた。

さて、私たちにとって本当に価値のあるものとは、一体なんだろうか。

※車種や価格等の情報はAさんへの取材を基にした購入当時のものとなります。