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35年前、日本中が胸を締めつけられた“坂道のラブソング” 若き歌姫が綴った“切ないのにポップなCM曲”

  • 2025.9.19

「35年前のあの日、あなたはどんな景色の中で恋をしていた?」

1990年、バブルの余韻がまだ街をきらびやかに照らしていた一方で、人々の心の奥には、どこか“行き先の見えない不安”が漂っていた。

雑誌の見出しは華やかで、街角にはネオンが溢れていたけれど、そんな喧騒の隙間で聴く音楽こそが、心に深く届いたのかもしれない。音楽は日常に溶け込みながらも、ふとした瞬間に人の記憶や感情を呼び覚ます。その役割を強く果たしたのが、当時のJ-POPシーンだった。

森高千里『道』(作詞:森高千里・作曲:安田信二)——1990年1月25日発売

四季の風景に重なる記憶

『道』は森高千里にとって9枚目のシングル。元は彼女にとって初のベストアルバム『森高ランド』(1989年12月発売)のために書き下ろされた楽曲で、翌月にシングルカットされた。

森高が自らペンをとった歌詞は、坂道、港、バス停——ありふれた風景を切り取りながら、四季の移ろいとともに恋の記憶を重ねていく。

春夏秋冬が同じように流れていっても、そこに寄り添う思い出だけは消えない。そんな普遍的なメッセージが、透明感のある歌声に乗せられたことで、聴く人の胸に一層響いた

当時まだ20歳の森高が、等身大の視点で描いた詞のリアリティは、同世代の女性を中心に強く共感を呼び、ファッションや生き方に憧れを抱かせる存在としての彼女の地位を固めていく。

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森高千里-1993年撮影 (C)SANKEI

ベスト盤から生まれた“未来への一歩”

ベストアルバムからシングルとして世に出た『道』は、ヒットチャートをにぎわす派手な曲とは一線を画し、“森高千里の等身大の言葉”を示した一曲でもある。ベストという“過去を振り返る総括”の場に、新たな一歩を刻むように収められたこの楽曲には、キャリアに対する彼女自身の強い意志が感じられる。

さらに、本作は森高が出演する江崎グリコ「アーモンドクラッシュポッキー」のCMソングにも起用された。ポップで明るい映像の中に流れるこの旋律は、商品イメージとともに広く浸透した。

誰もが心に描く“あの日の道”

聴く人それぞれが、自分だけの坂道や港町を思い浮かべられるのも、この曲の大きな魅力だ。

歌詞に登場する風景は具体的でありながら、誰もが共感できる普遍性を持っている。だからこそ、今なおこの曲を耳にすると、「あの日あの時、誰と歩いたのか」を自然と思い出してしまう。

音楽が“場所の記憶”を強く呼び起こすことはよくあるが、『道』はその力を象徴的に体現している。恋人と歩いた坂道、友人と語り合った夕暮れ、あるいはひとりで歩いた雨上がりの道——聴く人の人生のどこかに必ず重なる瞬間があるのだ。

時を超えて残る余韻

『道』が発売された1990年から、すでに35年。街の風景も人々の暮らしも大きく変わったが、音楽が呼び起こす記憶の力は色褪せない。

森高千里が描いた“道”は、ただのラブソングではなく、人生を振り返るときに必ず現れる“思い出の道”そのもの。

——坂道を歩く二人の姿。それは恋人同士であると同時に、誰もが一度は経験した青春のかけら。

『道』は、今も静かに、しかし確かに私たちの胸に息づき続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。