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27年前に放送された“狂気的な純愛”を描いた傑作 過去に朝ドラを手掛けた有名脚本家の“独特なドラマ”

  • 2025.11.25

1998年に放送された榎本加奈子主演の連続ドラマ『恐るべしっっ!!!音無可憐さん』(以下、『音無可憐』)は、大好きな男の子の理想の姿に変身した女の子が、周囲を翻弄する姿を描いたパワフルなラブコメディだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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榎本加奈子 (C)SANKEI

高校生の音無可憐(榎本加奈子)は先輩の武田軍司(岡田義徳)に片思いしていた。

ある日、軍司が、可愛くて、大人しくて、か弱くて、いつも笑っていて、メルヘンチックで、影からいつも自分のことをそっと見ている女性が好みだと、友達に話しているのを聞いた可憐は、軍司の理想の女の子になろうと決意。
ファンシーな洋服に身を包み、身も心も可愛い女の子に変身して軍司に積極的にアプローチするようになる。
だが、軍司が話していたのは冗談で、そんな女、実際にいたら怖いと最後に付け足していた。

最後の言葉を可憐は聞かずにその場を立ち去ってしまい、夜道を歩きながら軍司が理想とする女になろうと決意してしまったのだ。

そのため、可憐に迫られても軍司は嬉しくなく、むしろ恐怖を感じて怯えるのだが、次第に可憐の純粋さに惹かれていくようになる。

原作は『白鳥麗子でございます!』等の作品で知られる鈴木由美子の同名漫画。脚本は岡田惠和が担当。

『音無可憐』が放送されていたのは、テレビ朝日系の月曜ドラマ・イン(月曜夜8時枠)という若者向けのドラマ枠で、岡田は同枠で放送された『イグアナの娘』を手掛けたことで、シリアスで泣けるドラマが書ける脚本家として高い評価を獲得した。 しかし本作は『イグアナの娘』とは真逆の、ぶっ飛んだラブコメとなっており、当時は脚本家としての岡田の振れ幅の大きさに驚かされた。
本作で岡田は、泣ける話だけでなくラブコメも上手いことを証明したのだが、『音無可憐』で見せたファンタジーとコメディの手法で思い込みの激しい少女の成長を描く作風は、2001年度前期の連続テレビ小説『ちゅらさん』へと繋がっていく。

ストーカー行為に対するラブコメを用いた批評

本作の第1話は「ブリッコ・ストーカー登場」というタイトルで、可憐のことは「ブリッコ・ストーカー」と語られていた。 今では犯罪行為として定着しているストーカーは90年代後半に普及した言葉で、1997年には『ストーカー 逃げきれぬ愛』、『ストーカー・誘う女』といったストーカー行為を題材にしたドラマが作られ、同じ年に放送された刑事ドラマ『踊る大捜査線』でも、女性刑事にストーカー行為をおこなう犯罪者が登場した。

近年ならアイドルへの“推し活”がそうだが、行き過ぎた相手への好意が犯罪につながるのが、ストーカー行為である。
この時期にストーカーが社会問題となり、テレビドラマで描かれるくらい注目されたのは、80年代から続いていた恋愛ブームがひと段落し、相手のことを一途に思う行為が必ずしも美しいものではなく、とても暴力的な振る舞いではないか?という恋愛ブームに対する異議申し立てとしての側面も大きかったのではないかと思う。
だが、そういった当時の時代状況を踏まえると、『音無可憐』の立ち位置はとても独特である。

女の子の純愛を暴力的で恐ろしい行為として描きながらも、それでも一途に相手を思う気持ちは美しく、簡単に否定できるものではないということを、ドタバタラブコメディを通して描き切っている。

その意味で本作は純愛ドラマブームだけでなく、当時急増したストーカードラマに対しても冷や水をぶっかけており、とても批評的なラブコメだったと言える。

コメディエンヌとして突出していた榎本加奈子。

本作がラブコメとして成功したのは、可憐を演じる榎本加奈子のコメディエンヌとしての振り切った芝居があったからだろう。

1995年に『家なき子2』で主人公をいじめるお嬢様の木崎絵里花を演じたことで榎本は大きく注目され、ドラマやバラエティ番組で活躍。
タレントとしては、可愛い外見とギャップのある、ぶっ飛んだ暴言を吐く姿が話題になったが、何を言っても場がシリアスにならない独自のおかしさが榎本にはあった。

それは演技においても同様で、華やかな服を着てかわいい女の子であることをポーズやしゃべり方で強くアピールしても、全く女性としての色気に繋がらないことによって、独自の面白さが生まれるのが女優としての榎本の個性だった。
おそらく可憐は、他の女優が演じていたら悪い意味で色気が生まれ、男に媚びていると女性から強く批判されていたのではないかと思う。
実際、劇中では軍司に片思いしている万田久美子(小嶺麗奈)が、恋のライバルとして可憐の振る舞いを強く批判する。
だが、彼女の憤りはいつも空回りしてしまう。なぜなら、可憐の可愛さの方向性があまりにもおかしくて色気がないため、一般的な意味での“男受け”とは違う方向に振り切ってしまっているからだ。

可愛い振る舞いが、過剰に芝居がかっているが故に、キャラを演じているというコスプレ感が強まってしまい、その存在自体が面白くなってしまう可憐の姿は、タレントとしての榎本が持っていた面白さと重なるものがある。
その意味で完璧なキャスティングだったと言えるだろう。

『イグアナの娘』とのつながり。

榎本は前述した『イグアナの娘』に菅野美穂が演じるヒロインの妹役として出演して人気を博した。

榎本の他にも『音無可憐』には、軍司を演じた岡田義徳と可憐の父親・秀樹を演じた草刈正雄を筆頭に、『イグアナの娘』から続投している役者が多数出演しており、菅野美穂も軍司の初恋の人として出演している。

母親に愛されない娘の苦しみを描いた『イグアナの娘』はシリアスで哀しいドラマだったが、『音無可憐』は馬鹿馬鹿しくて楽しいラブコメとなっている。
その意味で真逆のドラマだったが、続投している役者が多く、岡田惠和を中心としたドラマチームが引き続き制作しているため、並行世界を描いた続編を見ているような面白さがある。

苦しみを背負った『イグアナの娘』のキャラクターを演じた役者たちが『音無可憐』の登場人物を楽しそうに演じている姿を観ると、とても幸せな気持ちになる。

だから、この2作はセットでおススメしたい。


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。