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朝ドラで“緩衝材”として活躍する欠かせない人物「好きすぎる」「どんどん自然に」視聴者に愛される“ベテラン俳優の妙”

  • 2025.11.25
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『ばけばけ』第5週(C)NHK

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』のなかで、物語の地である明治の松江をそっと支える人物がいる。花田旅館の主人・花田平太である。演じるのは、舞台・映画・テレビと縦横無尽に活躍してきた俳優・生瀬勝久。彼の存在は、異文化との接触に緊張する松江の人々と、異国から来た教師・ヘブン(トミー・バストウ)とのあいだを取り持つ、絶妙な“緩衝材”として機能している。

夫婦の空気で築かれる“町のリアリティ”

物語に登場する多くのキャラクターが、自身の信念や過去と向き合いながら大きく揺れ動くなか、平太という人物はどこか“地に足のついた”存在として描かれている。

彼が営む花田旅館は、外国人であるヘブンが最初に住む場所として選ばれ、しじみ売りのヒロイン・トキ(髙石あかり)が定期的に出入りする場所でもある。つまり、松江という町の内と外、人々の公私をつなぐ“交差点”に位置するのがこの旅館であり、そこに生きる平太こそが町の縮図ともいえるだろう。

特筆すべきは、妻・ツルを演じる池谷のぶえとの夫婦のやりとりだ。決してドラマチックな見せ場があるわけではない。しかし、この夫婦のさりげない掛け合いが積み重なることで、松江の町に流れる空気が可視化されていく。ちょっとした言い間違い、余計な一言、そして後悔を滲ませる沈黙。こうした瞬間に、平太の人間味と町の懐の深さが、じんわりと沁みてくる。

“異人さん”への本音がにじむ顔

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『ばけばけ』第5週(C)NHK

平太は決して偏見に満ちた人物ではない。しかし、外国人に慣れていないという当時の庶民感覚を、生瀬の演技は丁寧に映し出す。

たとえば、ヘブンのストレートな物言いや感情表現に対して、どこか戸惑い、愛想笑いを浮かべる。その笑顔には、優しさと同時に、“どう接していいかわからない”という本音がにじむ。視線の揺れ、口元の緩さ、肩の位置……そうした細やかな所作が、ただの陽気な旅館の主人以上の奥行きをもたらしている。

日本人特有の“感情をあからさまに出さない”コミュニケーションと、ヘブンのように感情をまっすぐにぶつけてくる異文化とのあいだには、明確な“衝突”がある。しかし、その衝突はあからさまな対立ではなく、”笑顔”と“困惑”が同居した表情のなかで、緩やかに浮かび上がるものだ。

作品世界に深みを加える、職人俳優の妙

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『ばけばけ』第5週(C)NHK

生瀬勝久といえば、舞台でもテレビでも定評のある“喜劇性”を備えた俳優だ。彼の演技は、ギャグでもオーバーリアクションでもなく、人間のどこか滑稽な部分をさらりと滲ませる。その絶妙な匙加減が、花田平太という人物にリアリティを与えている。

たとえば、花田旅館の女中・ウメ(野内まる)が眼病を患っていたことに気づけなかった場面では、ヘブンからきつく咎められることになる。異文化の医療観や価値観に戸惑う姿は、過去の自分の失敗への悔いと、ヘブンへの不信感がせめぎあうように描かれた。

ここでの生瀬の演技は、必要以上に声を荒げるわけでもなく、ただ少しだけ目を伏せ、戸惑いながら言葉を探すのみ。その不完全で独特な間合いこそが、平太という男の誠実さを物語る。

生瀬は、主演として派手に物語を引っ張る役柄ではなくとも、出てくるたびに“その人物がそこに生きている”と思わせる俳優である。『ばけばけ』での花田平太もまさにその典型で、異文化との交錯を描くこのドラマにおいて、視聴者が感情移入する“入り口”のような存在だ。

外国人が怖い、でも悪い人ではなさそう。そんな微妙な感情を代弁する存在として、平太はとても重要な位置を占めている。

平太とツル、松江の町とヘブン、笑顔と困惑。相反するものをつなぐ“潤滑油”として、花田平太というキャラクターは存在している。生瀬勝久という俳優が、その持ち味であるユーモアと包容力で演じるからこそ、SNS上でも「この夫婦、好きすぎる」「どんどん自然に……」と視聴者の間で愛されるのかもしれない。

異文化が流れ込む町で、あえて大声を出さず、あえて白黒つけず、ただそこにいてくれる人物。『ばけばけ』という作品が描く“交じり合いの物語”において、彼ほど欠かせない登場人物はいないだろう。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_