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日韓共同制作の“化学反応”は成功?視聴者の“予想を裏切る展開”もあった【火曜ドラマ】日本に吹き込まれた新しい風

  • 2025.9.10

TBSと韓国のスタジオ・ドラゴンがタッグを組むという、放送前から大きな注目を集めていた火曜ドラマ『初恋DOGs』が、ついに最終回を迎えた。当初は、愛犬同士の“初恋”から始まる国境を越えたラブコメディとして期待されていたが、物語が始まると“50億円の遺産が絡む犬”を巡るサスペンスフルな展開も絡み合い、良い意味で視聴者の予想を裏切ってきた。

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火曜ドラマ『初恋DOGs』第1話より(C)TBS

最終話を迎えた今、振り返ってみると、本作はそんな大きな遺産相続をめぐるゴタゴタよりも主要3人の登場人物の関係を中心にした、心温まる人間関係の心地よさが目立つ作品だった。そんな本作の魅力を改めて振り返ってみたい。

互いを尊重し合う“さわやかな三角関係”

本作最大の魅力は、主人公・愛子(清原果耶)、獣医の快(成田凌)、そして韓国の財閥御曹司ソハ(ナ・イヌ)が織りなす三角関係の描き方だ。従来の三角関係ドラマにありがちな、嫉妬や憎しみで恋敵を蹴落とすようなドロドロした関係性とは全くの無縁。彼らは終始、互いの幸せを願い、尊重し合うという、新しい時代のパートナーシップを見せてくれた。

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火曜ドラマ『初恋DOGs』第3話より(C)TBS

ソハは愛子への好意を「愛情:友情=7:3」と伝えながらも、快へ向かう彼女の気持ちを察し、その背中を押し続ける存在だった。快もまた、ソハとの共同生活の中で彼の人柄に触れ、兄弟のような深い絆を育んでいく。そして愛子は、二人の男性の間で揺れながらも、彼らが互いを大切に思う気持ちを誰よりも理解していた。むしろ、中盤では、この3人の関係性を壊したくないからこそ、恋愛としての一歩を踏み出しにくくなっているとも感じられた。

特に、快の動物病院が経営の危機に陥った際、ソハが自ら身を引くことを選んだ第8話の展開は象徴的だ。「俺のせいで」と大切な人たちの居場所を壊さないために、あえて憎まれ口を叩いて去っていくソハの姿は、深い愛情と友情があることを強調していた。この「ギクシャクしない三角関係」こそが、本作に温かく心地よい空気感をもたらした最大の要因だろう。

“当て馬”ではないもう一人の主人公、ソハが見せた理想の男性像

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火曜ドラマ『初恋DOGs』第3話より(C)TBS

このさわやかな三角関係を成立させた立役者は、間違いなくソハだ。彼は、単なる恋のライバル、いわゆる“当て馬”キャラクターではなかった。物語を牽引し、愛子と快の関係性を誰よりも前に進めた、もう一人の主人公だったと言える。

「関係が変わるのに必要なのはほんのちょっとした何か」と、焦る愛子を優しく諭す余裕。一方で、彼女に危険が迫れば「一番大切な人」「迷惑をかけるのは許さない」と毅然とした態度で守り抜く強さ。そして何より、快と愛子のために韓国から駆けつけ、「戦おうよ、一緒に」と手を差し伸べる頼もしさ。ソハを演じたナ・イヌ自身も相まって非常に魅力的な男性像を視聴者に提示していた。

愛子と快、二人の幸せを心から願う姿は、まさに理想の男性像そのものだった。日本での“ただのソハ”と、韓国での“大企業ウロアグループのソハ”を見事に演じ分けたナ・イヌの演技力もあり、ソハは多くの視聴者の心を掴んだと言える。

犬のように素直に――こじらせた二人が愛を知るまでの軌跡と、心温まる結末

「恋は錯覚」と愛を信じられなかった愛子と、「恋は本能」と言いながら自身の本能に気づけずにいた快。そんな“こじらせた”二人が、犬たちの純粋な愛情や、ソハという大きな存在に影響され、少しずつ心の氷を溶かしていく過程こそ、この物語の縦軸だった。

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火曜ドラマ『初恋DOGs』第8話より(C)TBS

両親の離婚問題とも向き合い、快を守るために法律事務所からの独立を決意した愛子。彼女が演じる、自分の殻に閉じこもりながらも、時に抑えきれない“本能”が溢れ出てしまう不器用なキャラクターを、主演の清原果耶は等身大の魅力で完璧に体現した。「ただ会うために待っているなんて、ものすごく好きみたいじゃないですか」とふてくされる姿は、たまらなく愛おしかった。

一方、快はソハとの共同生活を通して、人を信じられなかった彼の固く閉ざした心を開いていく。物語の冒頭で示された、犬のように素直な愛情表現を飼い主の2人が獲得するまでのプロセスを丁寧に見せていく展開は、ヤキモキさせられながらも納得感のあるものだった。

日韓共同制作の“化学反応”は成功したか? 『初恋DOGs』が日本のドラマに吹き込んだ新しい風

本作は、日韓共同制作により、日本のドラマ界に新たな風を吹き込んだ。ソハという完璧ながらも孤独を抱える御曹司のキャラクター造形や、ラブストーリーと並行して進むテンポの良いサスペンス展開は、韓国ドラマの強みを感じさせた。一方で、しろさき動物病院のスタッフたちが醸し出す日常の空気感や、主人公たちの繊細な心の機微を描く丁寧な演出は、日本のドラマが持つ良さが出ている。

この2つのテイストの融合によって、『初恋DOGs』はこれまでの日本のドラマにはなかった、新鮮な視聴体験を生み出した。本作の成功は、今後の日本のドラマ制作、特に国際共同制作の可能性を大きく広げる、価値ある一歩となったに違いない。

犬が繋いだ不思議な縁は、国境を越え、傷つくことを恐れていた大人たちの心を優しく解きほぐしていった。愛子、快、そしてソハ。特別な絆で結ばれた3人の関係がこれからも続いていくことを予感させるラストは、愛と信頼の温かさを、改めて私たちに教えてくれた。


TBS系 火曜ドラマ『初恋DOGs』毎週火曜よる10時

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi