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社員の反応が微妙なら即アウト…家具会社が有能な転職希望者を「一日体験入社」で落とした意外な理由

  • 2025.8.28

選ぶかどうか微妙な選択肢はどう扱うべきか。起業コンサルタントのグレッグ・マキューンさんは「本当に重要なことだけを選んで引き受けるべきだ。そのために、明確で厳しく、そして正しい基準を採用するといい」という――。

※本稿は、グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

「もっとわがままにノーと言おう」

TEDの人気スピーカー、デレク・シヴァーズ。彼は自身のブログで、「もっとわがままにノーを言おう」と主張している。中途半端なイエスをやめて、「絶対やりたい!」か「やらない」かの二択にしようと言うのだ。

そのためのコツは、基準をとことん厳しくすること。「やろうかな」程度のことなら却下する。「イエス」と言うのは、絶対やるしかないと確信したときだけだ。

ある経営者は、ツイッターでこう言った。

「絶対にイエスだと言いきれないなら、それはすなわちノーである」

まさにエッセンシャル思考らしい発言だ。選択肢を検討するときには、つねにこの基準で考えたほうがいい。

NOの文字
※写真はイメージです
ゆるい基準は必要ない

デレク・シヴァーズは、この基準を全力で体現している。たとえば人材採用にしても、本気で圧倒された相手しか雇わない。できそうだな、という程度の人はすべて不採用にする。そうやって断りつづけるうちに、やがて「これだ!」という人材がやってくる。

世界各地でのイベントの予定が入っていても、本気でわくわくしなければすべてキャンセルし、家でやりたいことをやっている。気乗りしないカンファレンスに出るより、そのほうが生産的だからだ。

引越し先を考えていたときには、「住めたらいいな」と思う程度の街(シドニー、バンクーバーなど)をすべて除外した。やがてニューヨークを訪れたデレクは、「この街しかない」と即座に確信したそうだ。

クローゼットをきれいに保つには、日頃から整理整頓できるしくみが必要だ。「いつか着るかもしれない」というゆるい基準を使っていたら、クローゼットはめったに着ない服でいっぱいになってしまう。これを「この服が本当に大好きか?」という基準に変えると、中途半端な服が消えるので、もっといい服を入れるスペースが生まれる。

同じことは、あらゆる決断に当てはまる。どうでもいいことを捨てられずにいると、本当に重要なことをする余裕がなくなってしまうのだ。

悪くない程度の選択肢の扱い方

先日、同僚と一緒に、私が講師を勤めていたスタンフォード大学dスクールの「人生を本質からデザインする」授業への参加者を選抜した。24人の枠に、100人以上の学生が応募してきていた。

私たちはまず、「毎回休まず出席できる」などの基本条件を決めた。次に、「人生を変える覚悟ができている」などの高度な基準をいくつか決めた。この基準に従い、応募者を10段階で評価していく。評価9以上なら、文句なしの合格。6以下は不合格。問題は、7〜8の応募者だ。誰を受け入れるべきか頭を悩ませたが、やがて気づいた。

「悪くない程度の選択肢は、すべて拒否したほうがいい」

そんなわけで、評価7〜8の応募者は不合格にした。

実にさっぱりした気分だった。

青空で腕を広げる男性
※写真はイメージです
90点未満は0点と同じ

この決断のしかたを「90点ルール」と呼ぶことにしよう。最重要基準をひとつ用意し、その基準に従って選択肢を100点満点で評価する。ただし90点未満の点数は、すべて0点と同じ。不合格だ。こうすれば、60〜70点くらいの中途半端な選択肢に悩まされずにすむ。

テストで65点をとったときの気分を思い出してほしい。そんなぱっとしない気分のものを、わざわざ選ぶ必要があるだろうか?

90点ルールは、トレードオフを強く意識させるやり方だ。厳しい基準を設ければ、必然的に、大多数の選択肢を容赦なく却下することになる。完璧な選択肢が現れることを信じて、かなり良い選択肢を切り捨てるのだ。

完璧な選択肢はすぐにやってくるかもしれないし、なかなか現れないかもしれない。だが、厳しい基準を設けるというその行為は、間違いなくあなたに自由を与えてくれる。他人や世の中や偶然に決められるのではなく、自分自身で選ぶ自由だ。「仕方なく」選ぶのではなく、「選びたいから」選ぶ自由だ。

おわかりのように、90点ルールのすぐれた点は、瑣末な選択肢を容赦なく切り捨てられるところだ。しかもシンプルな数字で決めるので、選択が合理的・論理的になる。直感や感情の入り込む余地はない。厳しすぎるルールに思えるかもしれないが、妥協すれば自分が損をするだけだ。

「みんながやっているからやる」という消極的な選択

非エッセンシャル思考の人はいつも、消極的な基準でものごとを選んでいる。

「上司に言われたからやる」「誰かに頼まれたからやる」、あるいは「みんながやっているからやる」という基準だ。

ソーシャルメディアで多くの人がつながっている現在、「みんながやっているからやる」というのはかなり危険である。世界中の他人の行動が見えてしまう状況でそんな基準を使っていたら、あらゆる瑣末なものごとに手を出すはめになってしまう。

人材の募集コンセプト
※写真はイメージです
明確な3つの基準

以前仕事で関わったある経営チームは、仕事を受けるかどうかの判断に、3つの明確な基準を使っていた。ところが、やがてその基準がどんどんあいまいになり、言われた仕事は何でもやる状態になってしまった。

その結果、チームの士気は激しく落ち込んだ。仕事量が増えすぎたせいもあるが、どの仕事にもやるべき理由が感じられなかったからだ。仕事は無意味な作業になった。そればかりか、会社の存在意義さえも危うくなってしまった。かつては自分たちの強みを生かしてきらりと光る仕事をしていたのに、今では無個性な何でも屋になり下がってしまったのだ。

そこで私は、彼らにもっとも厳しい基準をひとつ決めさせた。そして8割の案件はすぐに却下させた。おかげでどうでもいい仕事から解放され、彼らはふたたび自分たちの強みを生かした仕事ができるようになった。

選択基準が明確になったおかげで、チームの士気も上がった。経営陣の気まぐれな受注に振りまわされず、自分で納得できる仕事に取り組めるからだ。あるときには、入社まもない控えめな社員が、経営陣のトップに反論するのを耳にしたこともある。

「これは受けないほうがいいんじゃないですか? 私たちの基準にかなっていませんから」

こんなことが言えるようになったのも、明確な基準のおかげだ。

明確で厳しい基準があれば、誰でも不要な選択肢をシステマティックに却下し、重要な選択肢を選びとることが可能になるのである。

1種類の製品しか作らない家具会社

イギリスの家具会社Vitsoe(ヴィツゥ)の社長をつとめるマーク・アダムスは、27年のあいだ明確で厳しい基準を貫いてきた。

家具業界というのは、とにかく大量の製品をつくるイメージがある。季節ごとに色とスタイルを変えた新作を出して、消費者の目を迷わせる。ところがヴィツゥは、たった1種類の製品しかつくらない。606シェルビング・システムという収納システムに、何十年もこだわりつづけてきたのだ。

なぜか? ヴィツゥは非常に厳しい基準で製品を選んでいるからだ。その基準にかなう製品がほかにないなら、それをつくりつづけるだけだ。

606シェルビング・システムは、商業デザイン界の巨匠、ディーター・ラムスが自らのデザインに対する考え方を、きわめて簡潔に言い表した「より少なく、しかしより良く」という思想を完璧に体現している。それもそのはず、606をデザインしたのはディーター・ラムス本人である。

5つ星で最高の品質保証を保持
※写真はイメージです
いまひとつの人間を雇う必要はない

ただし、ヴィツゥのすごいところはそれだけではない。特筆すべきは、製品の基準以上に厳格な、人材採用基準だ。

いまひとつの人間を雇うより、人が足りないほうがいい。それがヴィツゥの基本方針だ。だから人材採用のプロセスは、非常に厳格でシステマティック。まず最初に、電話で面接をおこなう。電話を使うのは、見た目の印象に左右されたくないからだ。また、電話応対のマナーが適切かどうかもチェックできる。これならわざわざ会う手間を省きながら、多くの候補者を除外することが可能だ。

電話面接を通過した候補者は、社内のさまざまな人間と面接をすることになる。何段階もの面接をクリアしたら、今度は1日体験入社だ。実際にチームに交じって働いたあと、社員にアンケートが配られる。

「彼/彼女は、この会社で働くのが好きになると思いますか?」「彼/彼女が入社したら、楽しく一緒に働けると思いますか?」

こうしておたがいの相性を探り、もしもうまくいきそうなら、さらに何度かの面接を経て採用となる。もしも社員の反応が微妙なら、その候補者はアウトだ。

大事にしている基準

以前、ある有能な男性がヴィツゥに応募してきた。希望職種は商品の組立・設置エンジニア。顧客への印象を左右する重要なポジションだ。

グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(かんき出版)
グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(かんき出版)

この候補者は腕が良かった。体験入社のときにも、チームと一緒にそつなく作業をこなした。ところが、あとでチームのみんなに印象を訊いてみると、ひとつ気になる点があると言う。1日の作業が終わって道具を片づけていたとき、彼は工具を雑に放り込み、そのまま工具箱のふたを閉めたのだ。

普通なら、それほど気にしない問題かもしれない。わざわざ報告するほどでもないし、ましてや採用の判断を左右するとは思わないだろう。だが、ヴィツゥにとっては違った。彼らの求めるエンジニアは、けっして工具を雑に扱ったりしない。それが条件だ。ほかは完璧な仕事ぶりだったにもかかわらず、結局この候補者は不採用になった。

彼らの厳しい基準は、なんとなく感覚的に決まったわけではない。何がうまくいき、何がそうでないかを、冷静に観察しつづけた結果だ。おもしろいところでは、子供のときにレゴブロックで熱心に遊んだ人ほど、ヴィツゥでうまくやっていけるという事実がわかっている。当てずっぽうで言っているわけではない。彼らは長年、あらゆる基準を考慮しつづけてきた。大多数の基準は途中で消え、いくつかの基準だけが生き残った。

そのほかに彼らが大事にしている基準は、たとえば「この候補者は確実にわれわれと相性がいいか?」。何度も念入りに採用面接をおこなうのは、そのためだ。1日体験入社をして、社員一人ひとりの意見を聞くのも、そのためだ。彼らは慎重に情報を集め、冷静に論理的に決断を下す。まさに、エッセンシャル思考のやり方である。

グレッグ・マキューン(ぐれっぐ・まきゅーん)
THIS Inc. CEO
「少ない時間とエネルギーで最大の成果を出す」というエッセンシャル思考の生き方とリーダーシップを広めるべく、世界中で講演、執筆を行う。また、アップル、グーグル、フェイスブック、ツイッター、リンクトイン、セールスフォース・ドットコム、シマンテックなどの有名企業にコンサルタントとしてアドバイスを与えている。ハーバード・ビジネス・レビューおよびリンクトイン・インフルエンサーの人気ブロガーでもある。スタンフォード大学でDesigning Life, Essentiallyクラスを開講。著書の『エッセンシャル思考』(かんき出版)と共著書『メンバーの才能を開花させる技法』(海と月社)の原書は、ともに米国でベストセラー入りしている。

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