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朝ドラで夢を否定する“痛烈な一言”からまさかの展開へ発展「“あんぱん”らしくて好き」視聴者の“記憶に残る名シーン”に

  • 2025.9.5
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『あんぱん』第23週(C)NHK

朝ドラ『あんぱん』第23週「ぼくらは無力だけれど」では、嵩(北村匠海)が手がけたラジオドラマ『やさしいライオン』の反響とともに、母・登美子(松嶋菜々子)との緊張関係が大きな焦点となった。そこに介入するのは、義母である羽多子(江口のりこ)。ふたりの母親が示す態度は正反対でありながら、どちらも嵩にとって無視できない影響を及ぼす。この“母性の二面性”に注目したい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

羽多子の“肯定の母性”が与える安心感

羽多子は、嵩やのぶ(今田美桜)の生活に何かと顔を出し、ときにお節介とも思えるほど積極的に関わる存在だ。今週も、『やさしいライオン』を世に送り出したあと、それを聞いた登美子の反応を気にする嵩や、のぶの「(嵩と登美子が)ちゃんと仲直りして、お義母さんもここで一緒に暮らしてほしいと、うちは思いゆう」という言葉を聞いて、自ら登美子を柳井家に連れてくる役を買って出る。

羽多子のこうした行動力の裏には、のぶと同じように嵩の努力や才能を信じるとともに、夫婦の今後を見守りたいというあたたかい母性がある。

羽多子を演じる江口のりこの演技は、飄々とした軽さと、相手を包み込む大らかさを巧みに両立させている。羽多子の醸し出す“大丈夫、大丈夫”という空気感は、嵩やのぶに安心を与えるだけでなく、視聴者にとっても救いの存在となっているのではないだろうか。

嵩にとって羽多子は、失敗や不安も含めて丸ごと受け止めてくれる、いわば“肯定の母”なのだ。

登美子の“否定の母性”が突きつける現実

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『あんぱん』第23週(C)NHK

一方の登美子は、嵩に対し、羽多子とは真逆の姿勢を見せる。『やさしいライオン』を聴いても「甘ったるい話をつくっているようでは、頭の中が透けて見えるようだわ」と突き放し、挙げ句の果てに嵩に「だからその歳になっても代表作もないのよ」と言い放つ。

この言葉をきっかけに、羽多子の堪忍袋が切れ、お互いに思っていることを率直にぶつけ合う展開に。羽多子と登美子のやりとりに対し、SNS上では「面白さに耐えるの必死」「“あんぱん”らしくて好き」と評価が高い。

登美子を演じる松嶋菜々子の冷徹とも思える眼差し、そして言葉の一つひとつは、嵩の心を抉る。だがそれは、単なる否定や拒絶ではない。なかなかわかりにくく厄介だが、彼女なりの愛情の裏返しでもあるのだ。

言ってしまえば、登美子は現実主義者だ。戦後の困難な時代を生き抜き、甘い夢よりも厳しい現実に備えることが、身を助けることに直結すると知っている。だからこそ、嵩が優しさや理想を描くことに苛立ちを覚え、それを否定するのかもしれない。

彼女の“否定の母性”は、嵩に現実を突きつけ、創作者としての覚悟を迫る役割を担っているように見える。

肯定と否定、両面から試される嵩

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『あんぱん』第23週(C)NHK

肯定する羽多子と、否定する登美子。このふたりの存在は、嵩にとって決して相反するものではなく、むしろ双方が創作にとって必要な試練となっている。

羽多子の肯定は嵩の心を守り、未知なる領域に挑戦する勇気を与える。そして、登美子の否定は嵩に現実を見せ、作品づくりに対する責任を意識させる。嵩が「もしこれでダメだったら、僕は漫画家を辞める」と宣言したのも、母からの厳しい言葉を受けてなお、己を証明したいという衝動に駆られたからだろう。

この二面性は、ただの母子の対立ではなく、嵩の成長を促す装置として機能している。のぶが、結果よりも嵩の描きたい漫画を描くことに意味がある、と支えたのも、羽多子と登美子というふたりの母性の間で揺れる嵩自身を、そっと後押しする役割を果たした。

注目すべきは、羽多子と登美子を演じる、江口のりこと松嶋菜々子の演技のコントラストだ。江口は明るさとユーモアで羽多子の人物像を際立たせ、観る者に安心感を与える。松嶋は冷静で厳格な言葉を発しながらも、その奥に母の不器用な愛情をにじませる。両者の表現が対照的だからこそ、物語は厚みを増し、嵩をめぐる人間模様が立体的に浮かび上がる。

第23週で示された“母性の二面性”は、今後の物語においても重要な軸となるだろう。嵩は羽多子の肯定と登美子の否定、その両方を受け止めながら漫画家として成長していくはずだ。そして、いつの日か登美子の否定的な言葉も、素直に受け止められる瞬間が来るかもしれない。

母という存在は、ときに優しく、ときに厳しく子を導く。その多面性を描いた『あんぱん』は、視聴者自身にも母との関係を思い起こさせ、普遍的なテーマを浮かび上がらせている。


連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_


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