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20年前、日本中が胸を締めつけられた“静かに沁みるピアノバラード” 二刀流の才能を見せた“主演映画の主題歌”

  • 2025.9.14

「20年前の夏、どんな景色を思い出す?」

蝉の声が遠く響く夕暮れ、湿った風に混じって流れてきたのは、どこか胸を締めつけるような旋律だった。恋が始まる予感と、終わりを知る切なさが同居する——そんな季節に、ひとつのバラードが静かに人々の心に沁み込んでいった。

心に残るのは派手な打ち上げ花火ではなく、暮れゆく空にふと見上げた一番星のような、儚いきらめきである。

山崎まさよし『8月のクリスマス』(作詞・作曲:山崎将義)——2005年8月24日発売

映画と重なり合った“静かな祈り”

『8月のクリスマス』は、山崎まさよし20枚目のシングルであり、韓国映画『八月のクリスマス』をリメイクした同名映画の主題歌として書き下ろされた。物語は、小さな写真館を営む青年と、小学校の臨時教員との淡い恋を描いたもの。決して声高に語られることはないけれど、日常の中にそっと忍び込んでくるような、繊細で哀しい時間の流れが音楽の中にも宿っている

主演を務めたのは、シンガーソングライターである山崎自身。1996年の主演作『月とキャベツ』以来、実に8年ぶりとなる映画主演だった。再びスクリーンに立つだけでなく、音楽と主題歌までを自らの手で担うことで、物語と楽曲の境界は溶け合い、作品そのものと深く呼応した。ちなみに『月とキャベツ』の主題歌は名曲『One more time, One more chance』だ。

映画館で流れる主題歌の響きは、映像を支えるだけでなく、観客の心の奥底に長く残る余韻を生んでいた。

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2005年、映画『8月のクリスマス』舞台挨拶に登壇した山崎まさよし(右)と、ヒロイン・高橋由紀子を演じた関めぐみ(左) (C)SANKEI

ピアノに刻まれた“淡い恋の記憶”

本作は、ピアノを軸にしたバラードだ。鍵盤から流れる旋律は、まるで記憶の断片をなぞるようにひとつひとつが丁寧で、寄せては返す波のように静かな揺らぎを伴っている。聴く者は気づかぬうちに、映画のスクリーンの中に自分自身を重ね合わせ、心のどこかにしまっていた感情を呼び覚まされる

感情を乗せた山崎のボーカルによって、言葉の背後にある思いが鮮やかに浮かび上がる。余白を活かした音作りは、映画の淡い恋と儚い時間をそっと包み込み、聴き手に静かな涙を誘う。大げさな感動ではなく、じんわりと染み込むような余韻。それが、この曲最大の魅力である。

歌と演技が重なり合った“二つの顔”

山崎まさよしといえば、数々の名曲で知られるシンガーソングライター。その音楽はブルースやフォークをベースに、ギターの響きを軸にしたスタイルが多い。ところが『8月のクリスマス』では、そうした彼の“いつもの姿”を超えて、俳優として演じた青年の心情がそのまま楽曲ににじみ出ている

演じることと歌うこと。その二つを分け隔てずにひとつの作品として結晶させたことで、彼のキャリアの中でも稀有な存在となった。まるで映画の延長線上に音楽があり、音楽の中に映画が宿っているかのような不思議な一体感を聴き手は感じ取ることができる。

夏の終わりに刻まれた“永遠の一瞬”

『8月のクリスマス』のは、静けさで勝負する異色の存在だった。派手なセールス記録を残したわけではないが、映画とともに人々の心に深く残ったことで、記憶に強く刻まれる楽曲となった

映画のラストシーンと共鳴するように、夏の終わりに聴くこの旋律は、去りゆく季節とともに“永遠の一瞬”を封じ込める。20年が経った今もなお、あの夕暮れの空気を思い起こさせるこの楽曲は、時間を超えて聴く者の胸に寄り添い続けているのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。