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20年前、日本中を笑顔にした“アンバランスな新星アイドル” 社会現象を巻き起こした“異色のチアソング”

  • 2025.9.18

「20年前、テレビからあのポンポンと掛け声が飛び出してきた瞬間を覚えてる?」

2005年、街には大型のCDショップが立ち並び、週末ごとにランキングボードを確認するのが音楽ファンの習慣だった。テレビのバラエティ番組は今よりずっと勢いがあり、翌日の学校や職場での話題をつくるほどの影響力を持っていた。

そんな時代に、お茶の間を一気に明るく照らす存在が現れる。金髪のウィッグをかぶり、派手なチアリーダー衣装に身を包み、満面の笑顔を浮かべながらポンポンを振る姿。

その名は――松浦ゴリエ

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『フジテレビお台場冒険王2005』オープニングセレモニーに登場したゴリエ (C)SANKEI

フジテレビの人気バラエティ『ワンナイR&R』のコントから誕生したこのキャラクターは、登場した瞬間から強烈なインパクトを放っていた。そしてその人気はバラエティの枠を超え、やがて音楽シーンにも進出し、チャートをにぎわすまでに広がっていったのだ。

Gorie with Jasmine & Joann『Pecori♥Night』(作詞:ゴリエ美化委員会・作曲:Bill Martin, Philip Coulter)——2005年9月14日発売

バラエティから飛び出した“キャラクタースター”

『ワンナイR&R』は、2000年代前半を代表するバラエティ番組で、次々と個性的なキャラクターを生み出しては視聴者を笑わせていた。その中でも松浦ゴリエは特別な存在だった。ゴリの大柄な体格と男性ならではの骨太な声に、ブロンドのウィッグとチアリーダーのコスチュームが組み合わさる。その“強烈すぎるアンバランスさ”が逆に愛嬌を生み、幅広い層から支持を集めることとなった。

視聴者からの人気は想像を超えるスピードで拡大。やがて「ゴリエ=チアリーダー」というイメージが全国区で定着した。番組を見ていない人でも名前を知っているほどに認知度が高まり、そこから「キャラクターが音楽活動をする」という異例の展開につながっていったのだ。

2004年にリリースされたデビューシングル『Mickey』(こちらもカバー曲)は、幅広い世代に受け入れられ、文化祭や運動会でも定番のナンバーとなった。そして、この成功に続くかたちで登場したのが、2枚目のシングル『Pecori♥Night』だった。

世界的ヒット曲をチアソングに変えた奇跡

『Pecori♥Night』の原曲は、70年代に世界中を熱狂させたベイ・シティ・ローラーズの『Saturday Night』。イントロから繰り返される印象的な掛け声で知られるこの曲は、当時の若者カルチャーを象徴するナンバーだった。それを2005年の日本で、ゴリエというユーモラスなキャラクターが再解釈し、新たな命を吹き込んだ。

日本語詞にはゴリエらしい遊び心がたっぷりと盛り込まれ、単なるカバー曲ではなく「応援してくれるチアダンスソング」として再構築されたのだ。子どもたちから大人まで幅広く浸透し、自然と踊りたくなる高揚感を生み出した。

また、この曲を単なる“企画モノ”で終わらせなかったのは、歌声を担ったジャスミン・アレンとジョアン・ヤマザキの存在が大きい。2人のクリアで伸びやかなボーカルは、リズムに軽やかに乗り、サウンド全体を引き締めていた。笑いのキャラクターと本格的な歌唱という二重構造が絶妙なバランスで融合し、エンターテインメントとしても音楽作品としても成立する稀有な楽曲となった。

お台場から全国へ、そして紅白の舞台へ

2005年の夏、『Pecori♥Night』はフジテレビ主催の大型イベント「お台場冒険王2005」のイメージソングに起用され、連日イベント会場やテレビから流れ続けた。最終的には20万枚以上のセールスを記録。ランキングでも上位に食い込み、単なるバラエティ企画ソングをはるかに超えるヒットを達成したのである。

その勢いは年末の第56回NHK紅白歌合戦へとつながった。大晦日のステージに登場したゴリエは、華やかなパフォーマンスを披露。お茶の間に笑いと驚きと高揚感を届ける、2005年を象徴する忘れられない場面となった。

時代に刻まれたチアダンスソング

『Pecori♥Night』は、ただの“企画もの”として一瞬で消え去ることなく、「笑って、踊って、応援されている気分になる」という特別な体験を残した。名曲の普遍的な楽しさと、チアリーディング特有の前向きなエネルギーを掛け合わせたことにより、聴くだけで気持ちが明るくなる応援歌として成立していたのだ。

バラエティから誕生したキャラクターソングでありながら、イベントや学校行事、さらには国民的舞台の紅白歌合戦にまで駆け上がった軌跡は、2000年代半ばの日本ポップカルチャーの象徴ともいえるだろう。今聴けば、あの頃のテレビのにぎわい、イベント会場の熱気、そして家族で笑いながら年末を過ごした記憶までもが蘇る。

ゴリエが振るポンポンのきらめきと、耳に残るリズム。その光景は、2005年という時代を象徴する鮮やかなワンシーンとして、今も多くの人の胸に刻まれている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。