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40年前、日本中が衝撃を受けた“異色の本格派ムード歌謡” 破天荒を封印した“真面目なおふざけソング”

  • 2025.9.16

「40年前の秋、西麻布の夜を想像したことはある?」

1985年。バブル景気を目前に控え、街にはすでに高揚感が漂い始めていた。ネオンは眠らない夜を照らし、都会は昼よりも夜にこそ輝きを増していた。青山や六本木と並んで大人たちの社交場だった西麻布には、華やかさと妖しさが同居していた。そんな都会的な情景を背後に、とんねるずが世に放ったのが一曲のムード歌謡だった。

とんねるず『雨の西麻布』(作詞:秋元康・作曲:見岳章)——1985年9月5日発売

バラエティの人気者が挑んだ意外な世界は、当時のお茶の間に鮮烈な印象を刻みつけることになる。

笑いと哀愁が交差した一曲

『雨の西麻布』は、とんねるずにとって5枚目のシングル(『一気!』からとすると3枚目)。テレビ番組での破天荒な姿や、軽妙なトークで人気を集めていた彼らが、歌では一転して“ムード歌謡”の王道に挑戦する。その落差は視聴者に驚きを与えた。

曲中には石橋貴明と木梨憲武によるセリフが差し込まれ、コミカルなのかシリアスなのか判別できない独特の雰囲気を漂わせる。だが、その奇抜さを超えて、楽曲自体の完成度が高かったからこそ、聴く人の耳に深く残った。

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とんねるず-1985年撮影 (C)SANKEI

見岳章と秋元康、名コンビの妙

作曲を担当した見岳章は、『すみれ September Love』などで知られるロックバンド・一風堂の元メンバー。バンドは1984年に解散し、彼はその後作曲家として活動を広げていった。

見岳は、とんねるずの実質的デビューシングル『一気!』から、次の『青年の主張』に続き、この『雨の西麻布』でも秋元康とタッグを組むことになる。

お笑いと歌謡曲の境界に立つ2人に、洒落っ気と哀愁を絶妙にブレンドした楽曲を与えられたのは、秋元・見岳コンビならではだった。のちに美空ひばり『川の流れのように』という国民的名曲を生み出す二人の才能が、この楽曲にも確かに息づいていた

豪華な“裏方”が加えた厚み

さらに注目すべきは、コーラスに内山田洋とクール・ファイブが参加している点だ。ムード歌謡の王道を歩んだ彼らの重厚なハーモニーが加わることで、楽曲全体がぐっと本格派の響きを帯びる。

石橋・木梨の軽妙さと、クール・ファイブの正統的な歌声。その組み合わせは異色でありながら不思議と調和し、聴き手に強い印象を残した。バラエティソングの枠を超え、昭和歌謡の伝統を背後に感じさせる仕上がりとなったのは、この豪華な布陣の存在が大きい。

コミカルでいて、確かな名曲

テレビ番組で披露されたステージは、今なお語り草だ。スーツ姿で真顔を貫きながら歌う2人の姿は、観客を笑わせつつも妙にシリアスで、そのギャップが強烈なインパクトを与えた。「ふざけているのか、本気なのか」という曖昧さが、視聴者にとっては最大の魅力となった。

『雨の西麻布』は、笑いを誘いながらも本格的な歌謡曲の骨格を持つ稀有な一曲だ。都会的で艶やかなメロディと、遊び心を含んだ詞。そのバランスは、80年代半ばという時代の空気そのものを映している。

40年が経った今も、雨の夜にふと耳にすると、そのコミカルさと切なさが鮮やかに甦る。西麻布という街の象徴的な響きとともに、『雨の西麻布』は“芸人ソング”という枠を超えて、昭和歌謡の記憶に刻まれ続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。