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タワマン15階を購入も「夜10時過ぎると天井から…」入居1週間後に発覚した“大誤算”【1級建築士は見た】

  • 2025.8.28
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※ChatGPTにて作成(イメージ)

「高層階なら静かなはず」…でも違った

「まさか、こんなに響くとは思いませんでした」

そう話してくれたのは、都心に建つタワーマンションの15階に暮らすMさん(40代女性・共働き)。

入居から1週間も経たないうちに、夜10時を過ぎると天井からドタドタという足音が聞こえてくるように。昼間も洗濯機のような振動音が響いてきて、夫婦そろって寝不足気味になってしまったといいます。

「内覧のときは静かだったのに…。タワマンって、もっと遮音性が高いと思っていました」

実は、Mさんのように“高級マンションなのに音が気になる”という声は、決して珍しくありません。タワーマンションで暮らす人たちのあいだでも、生活音に関する悩みは意外と多く聞かれているのです。

響いているのは「空気の音」ではない

一般的に、「うるさい音」といえばテレビや音楽の音など、空気を伝わって聞こえる“空気音”を想像する人が多いかもしれません。でも、タワマンで問題になるのはそれではありません。

実は、上階の足音や椅子を引く音、洗濯機の振動などは、コンクリートの床や壁を通して響く“固体音”と呼ばれる音です。これは音というより振動のようなもので、直接建物の構造体に伝わって、下の階や隣の部屋に到達します。

つまり、「上の階が静かにしてくれれば解決する」とは限らないのです。構造そのものが音の通り道になってしまっている場合、それを完全に遮るのはなかなか難しいのが現実です。

“床の厚さ”が防音性を左右する

騒音の感じ方には個人差がありますが、建物の構造が原因で音が響きやすくなっているケースは実際にあります。特に注目したいのが「スラブ厚」と呼ばれるコンクリート床の厚みです。

このスラブが200ミリ以上あれば、一般的には遮音性が高まりやすいとされています。しかし、タワーマンションのように何十階もある建物では、全体の重さや階高制限とのバランスを取るため、スラブ厚を200ミリ未満に抑えている物件もあります。

見た目や設備がどれだけ豪華でも、構造面での配慮が足りなければ、音の問題は起こり得るのです。

「ボイドスラブ工法」が原因になることも

最近のタワーマンションで増えているのが、「ボイドスラブ工法」という床の構造です。これは床の中に空洞のボールのようなもの(ボイド)を入れることで、全体の重さを減らしつつ、断熱性や配線のしやすさを高める仕組みです。

一見すると最新技術であり、高性能にも思えますが、音の観点では必ずしもメリットばかりとは限りません。

ボイド部分が音の振動を反響させることで、思わぬ方向に音が響いたり、床下の構造によっては一部の場所だけ“共鳴しやすくなる”といった現象も起きます。つまり、見た目には分からなくても、「音が響きやすい床」になってしまう可能性があるのです。

「床材の変更」がトラブルの火種になることも

意外と見落とされがちなのが、住人やオーナーによるフローリングのリフォームです。

分譲マンションでは当初、遮音性能のあるフローリングやマットが採用されていることがほとんどです。しかし、入居後に無垢材や薄い床材に変更されると、せっかくの防音性が損なわれてしまうケースがあります。

特に上階が賃貸として運用されている場合、「内装をおしゃれに見せたい」との理由で、遮音性を犠牲にしたリフォームが行われることも。結果として、下の階の住人が原因不明の足音に悩まされる事態になるのです。

苦情の前に、冷静な共有と記録を

音に悩んでいるとき、すぐに上の階に苦情を言いたくなる気持ちは理解できます。でも、感情的にならず、冷静なアプローチをとることが大切です。

まずは、いつ・どんな音が・どれくらい続いたかをメモすること。録音できる範囲で記録を残すのも有効です。また、管理会社や管理組合に相談すれば、建物全体での注意喚起や調査、遮音ルールの見直しを提案してくれる場合もあります。

住民同士で同じ悩みを共有できれば、改善に向けた働きかけもしやすくなります。「個人の神経質な訴え」として片づけられないよう、「構造的に音が響いている可能性がある」という視点を持って伝えることが重要です。

“静けさ”は設計で決まる——見逃されがちな構造の重要性

高層階であっても、最新の設備が揃っていても、「音」は人の感覚に直結する繊細な問題です。しかも、その原因は住人のマナーだけでなく、建物の構造や工法、床材の選択にまで関わってきます。

タワーマンションに住む、または購入を検討する際は、スラブ厚や構造の図面に目を通すだけでなく、「遮音性の評価基準がどの程度か」「床材のルールがどうなっているか」といった点にも注意を払うべきでしょう。

音の悩みは、放っておくと心身のストレスに直結します。だからこそ、「音は構造のバランスで変わる」という視点を持ち、後悔のない住まい選びをしましょう。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。