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1級建築士が警鐘「スプリンクラーがあっても…」タワマン高層階ならではの思わぬ“防災の落とし穴”

  • 2025.8.29
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

実際、全国各地でタワーマンション火災が発生するたび、高層階特有のリスクが浮き彫りになっています。スプリンクラーや火災報知設備などのハード面は整備されているものの、それだけでは対応しきれない課題が存在するのです。

住宅・不動産分野に10年以上携わり(※2025年8月時点)、建築基準や防災対策に精通するyukiasobiさんも、この高層階火災の危険性を熟知する一人。そんなyukiasobiさんに、タワーマンション火災の特殊性について、お話を伺いました。

専門家が語るタワマン火災の真実

---タワーマンション中高層階での火災は、一戸建てや低層マンションとは根本的に異なるリスクがあると思いますが、消防活動の難しさや煙の広がり方について教えてください。

「タワーマンションの中高層階で発生する火災は、一戸建てや低層集合住宅とは根本的にリスクが異なります。最大の特徴は、消防活動の困難さと煙の挙動の特殊性です。

地上からの放水は20〜30m程度が限界であり、高層階のような高さでは届きません。そのため、消防隊は建物内部から進入して活動せざるを得ず、到達までに時間を要します。特に高層階では現場到着後も階段での上階移動となるため、初動が遅れやすい点が課題です。

煙の広がり方も低層建物とは大きく異なります。高層マンションは「煙突効果」により、煙や熱気が垂直方向に一気に移動しやすい構造的特徴を持ちます。火元階だけでなく、直上階や吹き抜けを介した広範囲への煙拡散が起こりやすく、避難経路の安全確保を難しくします。スプリンクラーの設置により炎自体は抑えられるケースもありますが、煙による被害は依然として重大な脅威です」

---火災時の避難について伺います。自室や同フロアからの出火と、別の階での火災では取るべき行動は変わりますか?「在宅避難」か「地上への避難」か、住民が判断するための具体的なポイントを教えてください。

「火災発生時に重要なのは、『火元の位置』『煙の状況』『避難経路の安全性』です。

自室や同フロアで火災が発生した場合:火炎や煙に巻き込まれるリスクが高いため、速やかに避難行動を開始することが原則です。

別の階で火災が発生した場合:すぐに地上へ向かうのではなく、まずは自室前の廊下や共用部の状況を確認することが重要です。避難経路に煙が充満している場合、無理な移動はかえって危険です。

このような場合には、在宅避難が推奨されることもあります。マンションは鉄筋コンクリート造で区画化されているため、一定時間は居室内の安全性が保たれることが多いからです。

一方、煙が薄く階段が使用可能な場合には、水平避難(同フロアで火元から離れる)や地上への避難を選択します。具体的な判断ポイントは『避難経路の安全性が確保されているかどうか』であり、煙の有無・濃度が最も重要な指標です」

---高齢者の世帯も多いタワーマンションで、要配慮者を守るために管理組合や住民コミュニティが取り組むべき「ソフト面」での防災対策にはどのようなものがありますか?

「実効性のある取り組みとして、マンション専用のアプリやSNS(災害共助SNS『ゆいぽた』)を活用し、安否確認や掲示板を通じて緊急時の情報を共有する仕組みを整えることが挙げられます。停電や断水といった状況を迅速に住民へ伝えられる一方で、高齢者などITに不慣れな方には情報が届きにくい場合もあります。玄関ドアに安否札を掲示するなど紙ベースの方法を併用することで、デジタルとアナログの両面から支える体制をつくることが、実効性の高い防災対策につながります。さらに、こうした情報共有の仕組みとあわせて、住民同士の声掛けや役割分担を事前に決めておくことも重要です」

「設備だけでは守れない」住民の命

タワーマンション火災の事例を見ると、最新の防災設備を備えた高層住宅でも、火災時には深刻なリスクが存在することが分かります。消防車の放水が届かない高さ、煙突効果による煙の急速な拡散、要配慮者の避難困難など、タワーマンション特有の課題は決して軽視できません。

yukiasobiaさんが指摘するように、ハード面の限界を補うソフト面での対策、つまり住民同士の協力体制が、生命を守る最後の砦となる可能性が高いのです。管理組合や住民一人ひとりが、この現実と向き合い、実効性のある防災対策に取り組むことが急務といえるでしょう。


取材協力:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。