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「隣家のカエルの声がうるさい」裁判にまで発展した理不尽な“騒音”トラブル…カエルの声は騒音になる?【弁護士解説】

  • 2025.8.27
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

お盆で里帰りした人も多いのではないでしょうか。

SNSで「都心の生まれ在住のパートナーが、自分の実家に宿泊し、カエルの声の大きさに戸惑っていた」といった趣旨の投稿がSNS上でされ、「分かる!」「懐かしい音だけど確かに都市部の人には驚きかも」と話題になりました。

ほのぼのとした夏休みの話題ですが、かつて隣家のカエルの声がうるさいといった理由で裁判になったこともあるのです。

はたして、カエルの鳴き声は法的に騒音として扱われるのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

「隣家のカエルの声がうるさい」裁判で勝つための条件とは?

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

カエルの声が騒音として認められるのは…?

---隣家のカエルの声がうるさいから騒音対策をしてほしいと訴えを起こして、その請求が認められるためには、どのような要件を満たしている必要がありますか?

隣家の音が問題となる場合、直接の根拠法は、民法709条(不法行為責任)または民法1条2項(権利濫用の禁止)です。この場合、判例上確立した「受忍限度論」が基準になって請求の可否が決まります。

裁判所は「社会生活上受忍すべき限度を超えるかどうか」を判断の基準にしています。

カエルの声に限らず、騒音に関する裁判例では、受忍限度を超えるかについて、以下の要素が考慮されます。

(1)音の大きさ(デシベル)

環境基本法や環境省の騒音基準を参考に、住宅地の昼間55dB・夜間45dB程度を超えると「騒音」と評価されやすくなります。

(2)時間帯・継続性

夜間に長時間鳴き続けるなど、生活の平穏を大きく乱す場合は違法性が高くなります。

(3)地域の性質

都市部の住宅地と、田園地域や農村地帯では「受忍限度」の基準が異なります。田園地帯では自然の音としてある程度は受忍すべきと判断されやすくなります。

(4)原因者の対応可能性

隣家の飼育や放置によるカエル(例えば池を造成し繁殖させている場合)と、自然発生的に生息するカエルでは責任の有無が変わります。隣人が防止可能かどうかも重要です。

(5)被害者側の状況

高齢、病気、乳幼児の睡眠障害など、健康被害が認められるかどうかも判断要素になります。

カエルの声をめぐる訴えで請求が認められるには、次のような事情が必要です。

ア、騒音の程度が環境基準を超えるほど顕著であること(単なる「気になる」レベルでは足りない)

イ、時間帯・頻度・継続性が生活に深刻な影響を与えていること(特に夜間の睡眠妨害など)

ウ、隣人に回避可能性があること(飼育・池造成による繁殖など、人為的要素が関与している場合)

エ、地域社会の一般的な受忍限度を超えていると認められること(田園地帯では難しいが、都市部では認められる可能性が高い)

犬の鳴き声は多く裁判になっている

---家でペットとして飼育している鶏や牛、犬や猫といった動物が出す声や音が騒音として裁判で認められたケースはあるのでしょうか?

犬の鳴き声が、最も多く裁判になっています。

代表的な例として、東京地裁平成21年11月12日判決では、マンションの隣室で飼育している犬2匹の鳴き声による騒音のため平穏な生活が害されたとして慰謝料請求が求められた事案で、約2年間に3回犬の鳴き声やにおいで迷惑しているとの苦情が寄せられているので、飼育方法を改善するよう管理組合が書面で改善を求めたものの改善が見られなかったことなどを理由に慰謝料請求が認められました。

犬は、飼育頭数も多いため、鳴き声がトラブルになりやすい傾向にあります。

猫については、従来放し飼いの場合も少なくなく、判例は少ないですが、繁殖期の鳴き声や糞尿被害をめぐる紛争は多数あります。裁判例では「完全に所有者が管理していた場合」を除き、飼い主の責任を認めるのは難しい傾向があるようです。

他の動物についても、紛争になるケースはあるようですが裁判にまで発展するケースは少ないようです。

隣家の動物の声がうるさい場合どうしたら良い?

---隣家の動物(飼育しているか否かにかかわらず)の声や音があまりにも度を超えてうるさいため対策を講じてほしいと感じた場合、どのような行動が適切でしょうか?

1、まずは冷静なコミュニケーション

いきなり感情的に抗議するとトラブルが悪化しやすいため、以下のような対応が望ましいです。

(1)事実を伝える

「夜中に長時間鳴き声が響いて、睡眠がとれない」など、具体的な時間帯や影響を冷静に説明しましょう。

(2)改善をお願いする

飼い主に対して、防音対策やしつけなどを検討してもらいましょう。

2、記録を取る

後に法的手段を取る可能性を考えて、証拠を残しておくことが大切です。

(1)日記やメモ

発生日時、時間、状況、体調への影響を記録します。

(2)録音・録画

スマホで音の状況を残します。デシベル計測アプリを利用すると客観性が高まります。

(3)第三者の証言

同じ地域の住民にも迷惑が及んでいる場合は、証言を得ることも有効です。

3、自治体や管理者への相談

当事者間で話をしても埒が明かない場合には、以下に相談しましょう。

(1)自治体の生活環境課・環境保全課

多くの市区町村で「生活騒音相談窓口」が設けられています。

(2)管理会社や管理組合

マンションや集合住宅の場合は規約違反の可能性があり、管理者を通じて指導してもらえます。

4、弁護士や調停の活用

再三の要請にも応じない場合には弁護士に対応を依頼したり裁判所の調停手続きを活用することとなります。

(1)内容証明郵便

弁護士を通じて注意喚起することで、相手が改善に動くケースが多いです。

(2)簡易裁判所での民事調停

裁判より柔軟に解決できる方法で、費用も抑えることができます。

(3)裁判(差止請求・損害賠償請求)

最終的な手段といえます。受忍限度を超えると裁判所が判断すれば、改善措置や賠償が命じられます。

自然の音と騒音の境界線

カエルの鳴き声が裁判で騒音として認められるには、かなり厳しい条件をクリアする必要があるようです。特に田園地帯では「自然の音として受忍すべき」と判断されやすく、都市部でも単なる「気になる」レベルでは法的な救済は難しいようです。

一方で、ペットの鳴き声については犬を中心に実際の裁判例も多く、適切な飼育管理が求められているとのこと。

もし騒音問題に直面した際は、まずは冷静な話し合いから始め、記録を取りながら段階的に対応していくことが重要です。適切な手順を踏むことで、より良い解決策が見つかる可能性が高まるでしょう。

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