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別居する夫「妻に慰謝料200万円…?」離婚時に“愛犬3頭の餌代”をめぐり裁判沙汰に…結末やいかに

  • 2025.8.23
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

近年、ペットを「家族の一員」とみなす意識が高まる一方で、法律上は依然として「物」として扱われており、離婚時におけるペットの引き取りや飼育費用の負担をめぐってトラブルとなるケースが少なくありません。

しばしばSNS上で「離婚するにあたってペットをどちらが引き取るか、飼育費用はどのように負担するか」といった議論が話題になります。

はたして、離婚時のペットは法的にどう扱われ、飼育費用の分担は認められるのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

実際起こった裁判の例

離婚する夫婦の間で、ペットの飼育費用をどのように分担するかが争われた判例があります。

こちらは、福岡家庭裁判所で争われた事例で、夫が一方的に家を出て別居し、妻が3頭の犬を飼い続けていたケースです。裁判所は犬を夫婦の共有財産として認め、夫の経済力が高いことを考慮して持分割合を夫3分の2、妻3分の1と決めました。

その結果、夫は家賃の一部と餌代の3分の2を妻に支払い、犬が病気になった場合の治療費も3分の2を負担することになりました。また、夫は一方的な別居により離婚原因を作ったとして、妻に慰謝料200万円の支払いも命じられた事例です。

弁護士が詳しく解説!離婚時のペット、法的にはどう扱われる?

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

法律上のペットの扱いは?

---離婚時、ペットは法律上どのように扱われるのでしょうか?

結論からいうと、日本の法律では、ペットは民法上の「物(動産)」として扱われ、子の監護や養育費のような枠組みは直接は適用されません(民法85条)。したがって離婚時は、所有権(誰の財産か)をどう帰属させるかという財産分与の問題として整理されるのが実務の原則です(民法768条)。

基本的なルールは以下の通りです。

ア、結婚後に取得したペット:夫婦の共有財産として扱われうる → 財産分与の対象。どちらが所有者になるか(引き取り手)を決めます。

イ、結婚前から一方が飼っていた/贈与・相続で取得した:その人の特有財産が原則 → 財産分与の対象外。ただし実態次第で例外的な考慮がされることもあります。

一方、裁判実務では、以下のように取り扱われることがあります。

ア、「物」とはいえ生き物なので、単なる価格評価・換価分割ではなく、(1)日常の主たる飼育者、(2)飼育環境(住居・時間・経済的余力)、(3)ペットの安定性などの事情を手がかりに帰属先(引き取り手)を定める運用が見られます

イ、調停・訴訟まで至った事案では、共有関係を認めつつ帰属・費用負担を調整した裁判例があります。たとえば、犬3頭の共有持分を夫2/3・妻1/3とし、妻が飼育を続ける前提で家賃相当の一部や餌代の負担を命じた判例があります。

ウ、一方で、財産分与の申立て自体が却下された例もあり、結論は、ペットの取得経緯や飼育実態、別居後の管理などといった事情に左右されます。

---どちらが引き取り手になるかは、きちんと飼育環境などによって判断されるのですね。

ペットにも「養育費」はあるの?

---引き取り手でなく、飼育費用の分担が争点になることはあるのでしょうか?

家事事件(離婚・財産分与)でペットが争点になることは増えていますが、多くは「どちらが引き取るか」までで終わり、将来の費用負担までは命じられません。

一般的な財産分与では、将来の継続的給付義務を認めることには慎重です。養育費のように法律上の明文根拠がないため、飼育費用についての命令は例外的といえます。

公表されている事案では、以下の事情が重視されたと考えられます。

ア、ペットが共有財産であることを認定した(犬3頭を夫2/3、妻1/3の持分と認めた)
イ、妻が今後も飼育継続することが当事者間で合意
ウ、実質的に「共有物を一方が占有・使用する」状態

その上で、民法252条の「共有物の負担」ルールを応用し、餌代や家賃(犬用スペース分)を持分割合で負担すべきと判断したものと考えることができます。

餌代・家賃等が毎月定額で把握可能だったため、命令が具体化できたといえるでしょう。

「ペット=物」としつつも、動物の福祉や継続的管理費用を考慮した新しい類型ということができ、今後の実務で、(1)共有財産としての持分割合を明確化、(2)費用負担を将来にわたり命じるという解決パターンの先例的役割を果たす可能性があります。

トラブルを防ぐためには「契約書で明文化」を

---離婚時にペットをめぐるトラブルを防ぐため、協議書などで明記しておくべき事項はありますか?

離婚時にペットをめぐるトラブルを防ぐには、「感情論」ではなく「契約書で明文化」が重要です。

実務では、以下のような項目を離婚協議書や公正証書に盛り込みます。

(1) 引き取り手(所有権の帰属)

この点について、協議書に入れておくのは以下の内容です。

ア、誰がペットの所有者になるかを明確化(民法85条、768条)
イ、種類・名前・生年月日・個体識別番号(マイクロチップ番号)などを特定
ウ、飼育場所の住所も記載し、無断譲渡・再販売を禁止する条項を入れる

(2) 飼育費用の負担

飼育費用は、原則、所有者が全額負担しますが、例外的に、合意できる場合には、

(1)負担割合(例:双方50%、収入比率に応じて等)
(2)支払方法(毎月○日、銀行振込等)
(3)支払期間(無期限/○年/ペットの死亡まで)
(4)上限額(特に医療費)

などを協議書に盛り込むとよいでしょう。

(3)医療対応

ペットの医療対応も問題となります。具体的には、以下の点を協議書に盛り込むことが望ましいです。

ア、予防接種・健康診断等の実施義務
イ、高額治療や手術の判断方法(事前協議が必要か/所有者の判断で決定可か)
ウ、緊急時の連絡方法(連絡不可の場合の処置判断権者)

(4) 面会・交流(希望がある場合)

相手方からペットとの面会交流の希望がある場合には、以下の内容を盛り込みます。

ア、面会日時・場所・頻度(例:月1回、所有者宅で1時間)
イ、引渡し方法・交通費負担
ウ、面会に伴うルール(体調不良時は延期等)

(5)死後の扱い

ペットが亡くなった後の取り扱いについても協議書に盛り込んでおくとよいでしょう。内容としては以下のものが挙げられます。

ア、葬儀・火葬・埋葬方法
イ、費用負担者
ウ、遺骨・遺品の保管や返還方法

(6) その他禁止事項

その他、合意ができれば、以下の条項を盛り込むことも可能です。

ア、第三者への譲渡・販売の禁止
イ、虐待・放棄の禁止
ウ、引越し・転居時の事前通知義務

あいまいな表現を避け、数値や期限で明確化(例:「必要に応じて負担する」→「予防接種は年1回○円までを双方50%ずつ負担」)したり、写真・マイクロチップ情報を添付して、ペットを特定することは協議書を有効化するためにとても重要なことです。

また、公正証書を作成することにより強制執行できるようにしておき、費用分担や返還請求に備えることも必要です。

「かわいそうだから」という理由だけで、あいまいな共同飼育にすると、後々の紛争が増える傾向にあります。離婚に伴うペットの問題は、しっかり協議書の内容に盛り込むのがおすすめです。

ペットも「家族」、でも法律は「物」として扱う現実

現在の法制度では、ペットは民法上「物」として扱われるため、離婚時は財産分与の問題として処理されます。しかし、ペットを「家族の一員」とみなす社会的意識の高まりを受けて、裁判実務では動物の福祉や継続的な管理費用を考慮した柔軟な解決が模索されているのが現状です。

何より重要なのは、感情的にならずに事前の取り決めをしっかりと行うこと。離婚協議書や公正証書で、引き取り手から費用負担、医療対応まで具体的に明文化しておけば、後々のトラブルを防ぐことができるでしょう。

ペットを巡る法的な議論は今後も続くと予想されますが、飼い主としての責任を果たしつつ、ペットの幸せを最優先に考えた解決策を見つけることが何より大切なのではないでしょうか。


記事監修:NTS総合弁護士法人札幌事務所 寺林智栄 弁護士

 

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2007年、弁護士登録(札幌弁護士会所属)。 2013年から2017年まで東京家庭裁判所家事調停官を務める。 離婚・相続などの家事事件、労働問題、一般民事事件、企業法務など、幅広い分野を担当している。