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30年前、日本中が衝撃を受けた“型破りなラップヒロイン” 40万枚超を売り上げた“TK流の異端ポップ”

  • 2025.9.2

「30年前の春、どんな音楽が街を彩っていたか覚えてる?」

平成の序盤を駆け抜けていた1995年。カラオケボックスには深夜まで人が溢れ、渋谷のスクランブル交差点にはルーズソックスの女子高生が集まり、街はエネルギーに満ちていた。

そんな空気を切り裂くように登場したのが、女優として注目を浴びていた内田有紀のシングルだった。

内田有紀『Only You』(作詞・作曲:小室哲哉)——1995年4月21日発売。

小室が仕掛けた“異端のポップ”

この曲は、内田有紀にとって3枚目のシングル。この曲からプロデュースを小室哲哉が担当した。当時の彼はTRFや篠原涼子らを手がけ、すでに“時代そのもの”といえる存在に。そんなTKが放った次なる一手は、若き女優を主役に据えた異色のポップソングだった。

振付を担当したのはTRFのCHIHARU。ステージングには都会的なダンス要素が加わり、内田有紀は従来のアイドル枠を超えた“パフォーマー”として強烈な印象を残した。

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1997年、コンサートで歌う内田有紀 (C)SANKEI

“WOW WAR TONIGHT”の余韻をまとった挑戦

『Only You』を語る上で欠かせないのが、ラップパートへの挑戦だ。1995年といえば、小室とダウンタウン浜田雅功によるH Jungle with tの『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント』が大ヒットを記録した直後。日本のポップシーンに“ラップ”や“ジャングル”といった新しい要素が浸透しつつあった時期だ。

『Only You』にも、その時代の風が吹き込まれている。疾走感あふれるシーケンスの合間にラップが挿入され、ビートはどこかジャングル風のリズムを想起させる。歌とラップを行き来する構成は、当時のJ-POPとしてはかなり挑戦的だった。

小室の声が刻んだ“美しき狂気”

さらに忘れられないのが、小室哲哉本人のコーラスワークだ。サビや掛け合いの部分で響く小室の声は、単なる“サポート”にとどまらず、まるでデュエットのような強烈な存在感を放っている。

内田有紀のナチュラルで素直な声に、小室の冷たさを帯びた声が重なることで、不思議な緊張感が生まれる。その掛け合いは、作品を“アイドルソング”から“異端の小室作品”へと昇華させる決定打となった。

女優からアーティストへ――40万枚の証

『Only You』はリリース後、瞬く間に話題を集め、40万枚以上を売り上げるヒットとなった。女優業と並行しながら活動していた内田にとって、これは確かな成功だった。“俳優が片手間で歌う”という従来の枠を打ち破り、アーティストとしての存在感を確実に刻んだ証ともいえる。

1995年、小室哲哉のもとからは数多くのヒット曲が生まれ次々とブレイクしていった。『Only You』もまた、その巨大なうねりの一部として語られるべき曲だ。ラップやジャングルビートを取り入れた実験性は、後の小室作品にもつながる。一人の若き女優を“時代のポップアイコン”へと押し上げた瞬間だった。

あの頃の春を呼び起こす一曲

『Only You』を聴くと、渋谷の雑踏や夜明けのカラオケボックス、そしてテレビから流れていた数々のヒット曲が蘇る。そこにあるのは、華やかさと同時に少しざわつくような不安。30年前の春、私たちは確かにこの曲に心を奪われていた。

ただのヒット曲ではなく、時代の速度感そのものを刻み込んだ証人。それが『Only You』という作品だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。