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「超える作品はない」「今も忘れられない」放送から“四半世紀”を経ても語り継がれる異色ドラマ…“大胆な脚本”で魅せた至高の一作

  • 2025.8.19

ドラマや映画のなかには、世の中の常識や価値観に疑問を投げかける作品があります。今回は、そんな“社会のタブーや偏見に挑んだ異作”を5本セレクトしました。本記事ではその第5弾として、ドラマ『美しい人』(TBS系)をご紹介します。出会った女性を亡き妻の顔に変えてしまった形成外科医と、DVの傷を抱えた彼女の運命とは――?

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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インタビューを受ける常盤貴子(C)SANKEI
  • 作品名(放送局)ドラマ『美しい人』(TBS系)
  • 放送期間:1999年10月15日~1999年12月17日
  • 出演:故・田村正和さん(岬京助 役)

美容整形外科医の岬京助(田村正和)は、欲望や自己顕示欲とは無縁で、静かに生きることを選んできました。かつては大学病院の外科部長を務めるほど優秀な外科医でしたが、他人と競い合うことを避け、独立開業する道を選択。

そんな京助のもとに、ある日、一人の若い女性・村雨みゆき(常盤貴子)が現れます。「あたしの全てを変えて欲しい」――その言葉に、京助は手術を断ろうとします。けれども、彼女が抱えていたのは、夫からの暴力という逃れがたい現実でした。

やがて、京助は整形を引き受ける決意を固めます。「好きな顔にしていい」と差し出された顔。その言葉にとまどいながらも、彼が選んだのは――亡き妻の顔でした。

その後、二人は一緒に暮らし始め、やがて愛情を育んでいきます。しかし、彼女の夫・村雨次郎(大沢たかお)は、執拗に妻の行方を追跡。次郎は刑事という立場を利用し、ATMの引き出し履歴などから、二人を追い詰めるのでした――。

記憶に生きる男と過去を捨てたい女の“切ないラブストーリー”

ドラマ『美しい人』は、1999年にTBSテレビ系の“金曜ドラマ”枠で放送された、全10話のテレビドラマです。

脚本を手がけたのは、1990年代のテレビドラマ界を牽引した野島伸司さん。『高校教師』シリーズ、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』『家なき子』シリーズなど、当時の社会問題に真正面から切り込み、話題作を次々と生み出してきた人気脚本家です。

ディレクターは、映画『ビリギャル』『罪の声』『花束みたいな恋をした』、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』『カルテット』などで知られる土井裕泰さん。

主演を務めたのは故・田村正和さんです。競争を嫌い、美容整形外科医として穏やかに暮らす岬京助を、優しさと孤独をたたえたまなざしで演じています。そんな彼の前に現れるのが、ヒロイン・村雨みゆきを演じた常盤貴子さん。美しい顔を持ちながら、夫の暴力から逃れるために「全てを変えて欲しい」と願い出る女性です。

そして、彼女を執拗に追い続ける刑事・村雨次郎を演じたのは大沢たかおさん。内に秘めた狂気と色気をにじませた演技が、物語に不穏な空気を漂わせました。そのほか、柳沢慎吾さん、森下愛子さん、内山理名さん、池脇千鶴さん、宮迫博之さんらが脇を固めています。

主題歌には、ジェーン・バーキンの『無造作紳士』を起用。甘くけだるい歌声が、作品全体に漂う哀しみと余韻をそっと包み込みました。
放送から四半世紀が過ぎた今もなお、色褪せることなく語り継がれている作品です。

韓国でのリメイクが高評価、次はトルコへ

多くの視聴者に深い印象を残したドラマ『美しい人』。その魅力は日本にとどまらず、韓国トルコでもリメイクされることになりました。

まず、韓国では2019年にMBCで『悲しくて、愛』というタイトルでリメイク。主人公となる形成外科医ソ・ジョンウォンを演じたのは、チ・ヒョヌさんです。整形前のマリ役はパク・ハナさん、整形後のマリと妻ハギョンの二役をパク・ハンビョルさんが熱演しました。マリの夫・カン・イヌクを演じたのはリュ・スヨンさんで、この作品で2019年MBC演技大賞優秀演技賞を受賞しています。ストーリーは原作と同様、妻を愛し続ける形成外科医と、夫の暴力に耐えかねて顔を変えた女性、そしてその行方を追い続ける夫という三人を中心に展開されました。

さらにTBSテレビは、トルコの制作会社・Most Productionと作品開発契約を結んだことを発表しています。代表を務めるギュル・オグズ氏は「トルコ国内だけでなく、世界中でもヒット作になることを確信している」とコメント。放送日や出演者などの詳細はまだ明かされていませんが、どのようなかたちでリメイクされるのか、今後の続報に注目が集まっています。

言葉と態度で追い詰める“見えないDV”の恐怖

ドラマ『美しい人』は、社会のタブーや偏見に果敢に挑戦し、当時のテレビドラマが避けがちだった繊細な問題に正面から向き合った作品です。1999年の放送当時、まだ公に語られることの少なかったDV整形といったテーマを大胆に描き、大きな注目を集めました。

とりわけ秀逸だったのが、DVの描き方です。本作では、殴る蹴るといった直接的な暴力シーンは一切描かれません。その代わりに、言葉や態度によって相手をじわじわと追い詰める“精神的な支配”の恐ろしさを通して、DVの本質を鋭く炙り出しました。DV防止法(2001年)が成立する以前の作品であったことを踏まえると、これは驚くほど先駆的な試みでした。

実際に、遠藤憲一さんの出演映画『DV ドメスティック・バイオレンス』(2005年)や、長澤まさみさんの主演ドラマ『ラスト・フレンズ』(2008年)といった作品よりも早く、このテーマに踏み込んでいます。

さらに、登場人物たちは誰もが心の内に狂気を秘めており、物語が進むにつれてその本性がむき出しになっていきます。野島作品の中でも屈指の異色ラブストーリーであり、単なる恋愛ドラマの枠を超え、人間の深淵をえぐるような物語が展開されました。

美しくも苦しい ― “タブー”を描いた恋愛ドラマの傑作

田村正和さんと常盤貴子さんの繊細な演技が光るドラマ『美しい人』は、大胆なテーマと洗練された演出で、四半世紀を経た今も多くの人の心に深く刻まれている珠玉のドラマです。

SNSには「切なくて悲しい物語」「繊細さと狂気と美しさが融合したドラマ」といった、細部の美しさに惹かれたという声が寄せられています。

一方で、「ラストがモヤモヤする」「精神が病んだ人しか出ないドラマ」「今なら絶対バズる」「話は大胆だが、田村正和の存在感ですべてが成立していた」といった意見もありました。「田村正和といえばこの作品」「妻への後悔に苦しむ姿に哀愁があり格好よかった」と、主演俳優の田村さんへの称賛は今も根強いようです。

DV加害者役の大沢たかおさんについても、「狂気を帯びた演技が印象的」「DVクズ野郎だけど大好き」と注目が集まりました。

「今観ても考えさせられる」「超える作品はない」「配信してほしい」「あんな美しい恋愛ドラマはもうないのかもしれない」「今も忘れられない」といった声からは、作品への再評価の高まりも感じられます。

"繊細さと狂気と美しさ"が交差する本作がこれほどまでに語り継がれるのは、社会のタブーや偏見に挑んだ異作として、時代の一歩先を描いた名作だからでしょう。


※記事は執筆時点の情報です