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朝ドラに映り込んだ“たった一枚の貼り紙”… 過去作とのつながりを彷彿とさせる“見逃しそうな仕掛け”

  • 2025.7.4
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『あんぱん』第14週(C)NHK

『あんぱん』第14週「幸福よ、どこにいる」では、戦後初の女性記者となったヒロイン・のぶ(今田美桜)が、自らの新たな人生を力強く踏み出していく姿が印象的に描かれた。生きていくのもやっとの時勢のなか、仕事に向き合う女性それぞれのスタンスの違いはもちろん、ようやくのぶと嵩(北村匠海)の恋愛に動きが見える予感でSNS上もわいている。

戦後を生きる人々のリアルな声――のぶの目線が映し出す現実

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『あんぱん』第14週(C)NHK

高知新報に入社したのぶは、戦争による傷跡が色濃く残る闇市での取材を始める。そこで彼女が目の当たりにしたのは、戦争孤児となった少年が、飢えのあまり野菜を奪って逃げる姿だった。

しかし、奪ったさつまいもを返しに戻ってくる少年の姿から、視聴者は戦争が奪ったものの大きさを痛感する。闇市に映り込んだ「カフェー燈台」の張り紙が、過去の朝ドラ『虎に翼』を彷彿とさせるなど、細かな演出も視聴者を楽しませたが、根底には戦争が残した重苦しい現実がはっきりと横たわっている。

のぶの取材でとくに印象的だったのは、子どもたちの生の声だ。「もとに戻してほしい」「あったかい布団で寝たい」「お父さんを返してほしい」……。この切実な叫びは戦争という悲劇の深さを鮮明に描き出していた。

一方、新聞社では夕刊発刊が流れ、のぶの記事が日の目を見ない状況が訪れる。それでものぶは、取材を止めない。彼女が信じるのは「絶望の隣には希望がある」という揺るぎない信念だ。取材した記事が載らない可能性を知りながらも、希望を追い続けるのぶの姿勢に、周囲の人間が感化され始める。

とくに印象深いのが上司の東海林(津田健次郎)が嵩や健太郎(高橋文哉)が雑貨売りで扱っていた雑誌『HOPE』を手に取ったシーンだ。彼が置き忘れた新聞は、ふたたびのぶと嵩の人生が交差する兆しを示しているように見える。健太郎が嵩に贈った万年筆が「漫画を描きたい」という彼の夢を再び呼び覚ますかのようで、その象徴的な意味にも目が離せない。

同じ女性、違うスタンス――のぶと琴子の対照的な働き方

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『あんぱん』第14週(C)NHK

新聞社には、のぶのほかに琴子(鳴海唯)という女性記者もいるが、彼女はのぶとはまったく異なるスタンスを取っている。

のぶは、夫の次郎(中島歩)を亡くした悲しみを抱えながらも、彼の教えた速記を活かし、懸命に記者として成長しようと奮闘する。一方、琴子は自らの結婚相手を探すために新聞社で働いていると言い切り、その潔さもまた一つの生き方として共感を呼ぶ。

とはいえ、仕事に苦労するのぶをさりげなくサポートする琴子の姿もあり、二人の対比と交流はドラマに奥行きを与えている。

そして第14週の終盤、嵩が高知新報の新入社員試験の会場に現れた。二人の人生がまた交わる兆しが見え、視聴者の期待は高まる。のぶもまた、嵩との人生を前向きに想像できるようになっていくのかもしれない。早くもSNS上では次週の予告に対して「来週の予告も期待しかない」「最後の言葉にえ!?ってなった」と声が挙がっている。

「絶望の隣の希望」を見つめる彼女だからこそ、嵩との再会にどのような希望を見出すのかが楽しみだ。

『あんぱん』第14週は、戦争という絶望の影を描きながらも、そのなかで希望を追い続ける人々の姿を丁寧に映し出した。のぶのまっすぐで力強い歩みは、多くの視聴者に勇気と希望を与えている。


連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_