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人と人のすき間を埋めるのは何?心温まる漫画『ケシゴムライフ』が教えてくれること

  • 2025.6.11

2010年に『インチキ君』で第27回講談社MANGA OPEN奨励賞を受賞した羽賀翔一氏。2017年には吉野源三郎の名作小説を漫画化した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)を発売し、発行部数250万部を超える大ヒットを記録しました。

そんな羽賀氏の初期の名作として知られているのが、2011年にモーニング(講談社)で短期連載されていた『ケシゴムライフ』です。本作は人々の日常生活で経験する繊細な感情の機微、人間関係などを描いた連作短編漫画となっています。

優しく爽やかで、どこか切ない雰囲気が漂い心打たれる。その独特な読み口が漫画ファンの間で話題となり、2014年にクラウドファンディングにより単行本化されました。

そんな本作には、人生を前向きにしてくれる「沁みるメッセージ」が盛り沢山。本記事では『ケシゴムライフ』内からエピソードを2つピックアップし紹介します。

人間関係ってマス目みたい(「#1 コマのすき間」)

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『ケシゴムライフ』(c) 羽賀翔一/コルク

同級生となかなか馴染めないひとりの男子生徒。彼は人付き合いがうまくいかず、「人間関係は「マス目」みたい。人と人のあいだには明確な境界線が引かれている」と考えています。

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『ケシゴムライフ』(c) 羽賀翔一/コルク

消しゴムを忘れた彼は、クラスメイトで休み時間に黙々とマンガを描くタカハシ君に貸してもらおうと話しかけます。しかし、タカハシ君は無反応。結局消しゴムを借りることはできず、「人と人との“間”には、マンガのコマのようなすき間が存在し、人は孤独を生きている」とさらに考えてしまいます。

このすき間を最後まで埋めることができなかったかというと、答えはNo。彼は「このすき間を埋めるために言葉がある」と、タカハシ君が描く漫画のコマとコマの間に感想を書き込むという行動を起こします。

「おもしろいぜ これ‼」と書かれた言葉を見たタカハシ君は、後日再び消しゴムを忘れてしまった彼に、自分からケシゴムを半分に切って渡してあげます。勇気を持って一歩踏み出したことが、2人の間にあった“すき間”をほんの少し埋めてみせたのです。

踏み込んでも拒否されてしまうことはあるでしょう。しかし、何もしなければ状況は変わりません。

“孤独”を“繋がり”に変えることができたのは、一度は無視されても自ら“すき間”を埋めに行く行動をした男子生徒の勇気。このエピソードには「言葉を通じてすき間を埋める行動をする勇気を持つことの大切さ」が込められているように思えます。

“間違いを消すこと”じゃない、人生における「ケシゴム」の役割(「#3 横断歩道のすき間」)

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『ケシゴムライフ』(c) 羽賀翔一/コルク

#3の主人公は『#1 コマのすき間』にも登場した青年・タカハシタカシ君。

大好きだった祖父の葬儀後、叔父に「漫画家になるつもり」と伝えるも、「人生には妥協が必要だ」と笑われ、たしなめられます。彼はそれに対し、「人生に必要なのはケシゴムです」と心の中で呟きました。

この言葉は幼い頃に彼が祖父から聞いたもの。当時の彼はケシゴム本来の役割である「間違えてもやり直せるということ」と解釈しますが、祖父はもうひとつの答えを提示します。ケシゴムの本当の役割は、「『間違えたっていいんだよ』ってえんぴつを安心させること」だと言うのです。

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『ケシゴムライフ』(c) 羽賀翔一/コルク

 

「大丈夫」「僕がついてる」「おもいっきり紙の上を走ればいい」—

ケシゴムから発せられるメッセージを受け取ったタカシ君はいっそう漫画制作に勤しみます。

このエピソードにおいて、「間違えても大丈夫」とタカシ君に寄り添っているケシゴムは、まるで彼の背中を押し続けてくれた祖父のよう。

遠く離れた場所に行ってしまったとしても、「間違えてもいい」とどんなときでもえんぴつを支えてくれるケシゴムの存在がいてくれるからこそ、えんぴつは思いっきり走れるのではないでしょうか。

自分にはそんな「ケシゴム」がいるだろうか—。あるいは誰かにとっての、ケシゴムになれているだろうか—。

このエピソードを読んだとき、自分自身の周りにいる人や自身の生き方に想いを馳せずにはいられませんでした。

静かなエールをくれる物語

『ケシゴムライフ』には、人との繋がりを大切に築くためのメッセージが詰め込まれています。

周りの人たちと上手く打ち解けられない、これからどうしたらいいのかわからず迷っている。本作を手に取れば、そんな悩みに一筋の光が差し込むかもしれません。

この作品の第1話を読む!

【第1話】コマのすき間《漫画・ケシゴムライフ》
【第1話】コマのすき間《漫画・ケシゴムライフ》


「ケシゴムライフ」(c) 羽賀翔一/コルク

※本記事はコンテンツの権利者に許諾を得た上で記事の制作・公開を行っています。

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