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"実力派俳優"だからこその絶大な説得力を逆手に…視聴者を何度も迷わせる"報道ドラマの罠"【日曜劇場】

  • 2025.5.16

放送中の日曜劇場『キャスター』は、阿部寛にとって幾度目かの日曜劇場主演作。阿部は型破りなフリーアナウンサー・進藤壮一を演じている。進藤の報道姿勢を通して、真実が見えてくる。

実際の事件をモデルにした物語

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日曜劇場『キャスター』第2話より (C)TBS

第2話では、バレーボール選手のカジノ利用やスポーツ賭博の疑惑、第3話では万能細胞に関する実験データの偽装など、実際の事件を連想させるストーリーが見られた。そのどちらのストーリーでも民衆には信じたい事実があることを示しつつ、それが覆るニュースがあると人々は飛びつくという皮肉を語ってみせた。

進藤はそんな報道の皮肉さを煽るように、新たな真実らしきものを提示する役柄。その方法は強引で、盗聴したり、施設に忍び込んだり、無理やり放送データを持ち込んだり。そういった非合法のやり方でないと、真実は世に出てこないということも示しているのかもしれない。

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日曜劇場『キャスター』第3話より (C)TBS

そして、進藤が調査してきたものが真実であるとも限らないのが、面白いところ。進藤は真実に見えるものを提示して世論を煽っているだけ。一度の報道で真実までたどり着くのではなく、真実らしきものを見せながら同時に調査も進め、二度三度と報道をして真実に辿り着こうとしている。

そして、進藤自身も清廉潔白な人物なわけではないということにも注目したい。金をもらって報道内容を捻じ曲げて、真実を巧みに隠すグレーな報道マンでもある。そんな行動の裏には、進藤の過去にまつわる思惑がありそうだ。それが物語後半の見どころとなるだろう。

阿部寛が持つ存在感と説得力

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日曜劇場『キャスター』第2話より (C)TBS

存在感という面で阿部の右に出る俳優はなかなかいないだろう。190cm近い長身とがっしりとした体型、彫が深い日本人離れした顔つきなど見た目の部分も大きいが、心臓まで響いてくる声の低さや音圧なども含めて、阿部が画面に映るだけで独特の威圧感がある。

しかし、シリアスで圧のある役柄だけが似合うわけではないのも阿部の魅力だ。代表作であるドラマ『結婚できない男』シリーズや『TRICK』シリーズ、映画『テルマエロマエ』など、コメディ演技も得意だ。近寄りがたい見た目をしているのに、どこかチャーミングな印象があり、親しみやすさが滲む。

威圧感がありつつ、親しみやすさもあるからこそ、阿部を通して表現される役柄にはどこか説得力がある。どんなセリフを発していようと聞き入ってしまうのだ。表情や視線だけで人を惹きつける俳優ももちろん魅力的だが、耳から視聴者の思考を支配し、画面から目を離させない威力は阿部の強みと言えるだろう。

それを改めて実感したのは、『キャスター』と同じくアナウンサー役を演じた映画『ショウタイムセブン』だった。この映画は、火力発電所の爆発事故とその犯人との交渉がメインの映画だが、ほとんど報道番組のスタジオ内で展開される。阿部が発する説明セリフで物語が進行していくが、その説明セリフを聞かせる術が素晴らしい。映画を見ている時、事件の状況を音として聞いてるだけなのに、ストーリーが持つ緊迫感に巻き込まれ、徐々に身体が緊張していくのを実感した。

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日曜劇場『キャスター』第1話より (C)TBS

ドラマ『キャスター』では、阿部の説得力を逆手にとって、進藤に巧みに嘘をつかせることで、視聴者は翻弄され、真実が何なのか分からなくなっていく。阿部の存在感と説得力がなければ成立しないドラマと言えるだろう。

SNSでは、「二転三転する展開に目が離せない」と進藤に翻弄される視聴者が多い様子。第1話の冒頭であった大規模火災。羽生(北大路欣也)にかけた「この手で殺すまでは絶対に死なせない」という言葉。数多くの謎が残されていそうだ。進藤の過去と葛藤を阿部はどう演じるのか。


TBS系 日曜劇場『キャスター』 毎週日曜よる9時

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202