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最終回で描かれた“歪んだ結末”…ただのサイコスリラーでは終わらなかった【木曜ドラマ】

  • 2025.5.19
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(C)AbemaTV,Inc.

「ホラーでしかない」「生命力強すぎる」――そんなSNSの声が飛び交うなか、ドラマ『死ぬほど愛して』がついに最終回を迎えた。物語の中心にいたのは、瀧本美織演じる澪と穏やかな結婚生活を送る一方で、裏では冷酷に人を殺めてきた神城真人(成宮寛貴)。成宮寛貴が8年ぶりに主演を務めた本作は、ただのサイコスリラーでは終わらない、どこか幻想的な余韻を残しながら幕を閉じた。最終話では、その“愛”の名のもとに繰り広げられる狂気の構造と、成宮が演じ切った“人間であり続ける殺人鬼”という矛盾を孕んだ存在が、息詰まるような緊張感とともに浮かび上がった。

死の手前から這い上がる男

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(C)AbemaTV,Inc.

最終回で真人は、もはや“裏の顔”を隠すことなく、自身の狂気をむき出しにしていた。澪を助けにきた週刊誌記者・石黒(細田善彦)との対峙は、剥き出しの本能と理性のせめぎ合い。命を脅かされながらも、真人は死の直前から何度でも這い上がってくる。常に不敵な表情で、どこまでも追い詰めてくるその姿は、サスペンスを超えてホラーと化していた。

極めつけは、自らの過去の“幻影”と対面するシーン。虐待されていた幼い自分、何もかもに絶望しきったかつての自分を目の前にしながら、「邪魔だ」と一言だけ吐き捨てて切り捨てる。これは、他者を排除するための殺意だけではない。愛された記憶のない自分、救われなかった自分、そしてその痛みすらも不要だと断罪する……そんな“自己否定の極地”とも言える場面だった。

しかしその真人が、最後にかすかに示して見せたのは「生きる」という選択だった。澪に「生きて」と言われ、従ったその瞬間、彼のなかにどんな感情が芽生えたのか。少なくともそこには、従来の“愛ゆえの殺意”とは異なる、微かな変化が芽生えたようにも思える。

成宮寛貴という俳優の帰還と“代表作”としての確かさ

『死ぬほど愛して』は、俳優・成宮寛貴の再出発の作品としても語り継がれるに違いない。真人というキャラクターは、単なるサイコパスではなく、痛みと喪失の果てに“愛”という言葉にしがみついてしまった、孤独で不器用な人間だった。そうした繊細な内面を、成宮は目線一つ、呼吸一つで表現してみせた。

最終回にて、石黒が書いた記事にはこう記されていた。「愛を殺した男」と。だがその一方で、澪から向けられた歪んだ愛に、真人もまた自らの方法で返していた。殺さなかった、という行為も、彼なりの“愛の表現”だったのかもしれない

ドラマが最終回を迎えたいま、あらためて思う。成宮寛貴の演技があったからこそ、この物語はただのスリラーでは終わらなかったのだ。彼が創り上げた真人は、忘れがたい存在として、多くの視聴者の記憶に刻まれたはずである。

サスペンスに宿った寓話性

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(C)AbemaTV,Inc.

最終回には、ひとつの象徴的な存在があった。澪が「チーコ」と名づけて可愛がっていた一羽の小鳥。かつて、真人と澪の縁をつないだ存在でもあるこの鳥は、最終話にて死の淵にいた澪と石黒を現実に引き戻すように登場した。まるで幸せの象徴として、二人に再び“生きる力”を与えたかのようだった。

だが、救いだけでは終わらない。澪は真人の子を身ごもっていた。「産む、当たり前でしょう」と答える澪の顔には、一切の迷いがない。あの“呪い”とも呼べるような愛が、今度は次の命に受け継がれようとしている。そこには、救済と絶望の両面がある

チーコの存在が天使だったのか、悪魔だったのかはわからない。ただ確かなのは、この物語がサスペンスの枠を超えて、寓話的な“愛の連鎖”を描き切ったことだ。

『死ぬほど愛して』というタイトルが最後に問いかけてくるのは、愛の正しさではなく、その“熱量”だ。真人にとって、愛とは所有であり、相手を自分の内側に閉じ込める行為だった。一方、澪の「生きて」「産む」という選択もまた、深く歪んだものかもしれない。

では、本当の意味で愛するとはどういうことか。このドラマは、明確な答えを提示しない。ただ、愛はときに誰かを救い、そして同じくらい誰かを壊すという事実を、じっと差し出してみせた。

視聴後に訪れるのは、すっきりとした結末ではない。だが、それこそがこの作品の誠実さであり、成宮寛貴という俳優が背負った物語の深さなのだ。善悪を超えた愛の物語は、終わった後にも私たちのなかで静かに生き続けている。


ABEMA『死ぬほど愛して』
[放送日時]3月27日(木)夜11時より ABEMAで配信開始
[出演者]成宮寛貴、瀧本美織ほか
[番組トップページ]https://abema.tv/video/title/90-2024

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_