朝ドラで突如現れた“怖すぎる女性”に大反響…SNSでも話題の“ベテラン女優”の名演技「目がすごい」

朝ドラ『あんぱん』が、徐々に戦時色を強めるなかで注目を集めたのが、今田美桜演じる主人公・朝田のぶの担任教師・黒井雪子を演じる瀧内公美である。軍国主義色が色濃くなっていく女子師範学校の現場に突如として現れた“女教師”は、まるで場の空気を支配するような威圧感をまとい、朝からテレビの前の視聴者に衝撃を与えた。SNSでは「瀧内公美さん、目がすごい」といった反応が相次ぎ、「黒井先生ショック」とでも呼ぶべき現象が巻き起こっている。だが、この「怖さ」の奥には、ただ迫力があるというだけではない、瀧内の演技力が持つ深い陰影が潜んでいる。

“黒井雪子”という存在が放つ、異様な緊張感

女子師範学校の入学初日、緊張感に包まれた教室に颯爽と現れた黒井雪子。整えられた髪と姿勢、隙のない発声と台詞回し。彼女が放った「日本婦人の鑑となる覚悟はありますか？」という第一声で、教室の空気は一気に凍りついた。

のぶが「家族の支えに応えたい」と素朴な決意を口にした瞬間、黒井はすかさず「愚かしい！」と一喝。「官費で学ぶ者として、国に尽くす覚悟がなければ去れ」と言い放つ。そこに込められたのは、単なる叱責ではなく、“思想教育の体現者”としての冷徹な使命感だった。

瀧内公美の目線、口調、表情筋のわずかな動き。そのどれを取っても、彼女の演技がこの役に命を吹き込んでいることがわかる。立っているだけで空間が引き締まり、ひと言で空気を変える。「目がすごい」「絶対恩師になるパターン」――そんな視聴者の感想も頷ける。

「語らない演技」が紡ぎ出す、心の内の奥行き

瀧内公美がこれほどまでに説得力を持って“重たい役”を背負えるのは、過去の作品で培われた表現力の豊かさにある。とくに映画『彼女の人生は間違いじゃない』では、震災後の福島で、生活のために風俗で働く女性を演じ、極端な状況下で感情を殺しながらも生き抜く女性のリアルを表現してみせた。

同様に、映画『由宇子の天秤』では、報道の倫理と自身の過去との間で揺れるジャーナリストを演じ、沈黙のなかに葛藤を滲ませる演技が高く評価された。「語らない」ことのなかにある複雑な感情の流れを観客に伝える技術。それが、黒井雪子にも通じている。

黒井の「怖さ」は、感情をむき出しにする怒声ではなく、あくまで抑制されたなかに潜む信念ゆえの“静かな圧力”である。感情を押し殺すからこそ、時折見せる目の鋭さや声の抑揚に、心の底に眠る熱が見えてくる。

コミカルにも通じる“柔らかさ”を内包した、幅の広さ

瀧内公美の演技の幅の広さは、実は『あんぱん』だけではない。たとえば、連ドラ『凪のお暇』では少し意地悪な同僚・足立心を軽やかに演じたり、『大豆田とわ子と三人の元夫』ではミステリアスな女優・古木美怜として存在感を発揮した。

こうした等身大の“ちょっと曲者”なキャラクターを演じるときの瀧内には、飄々としたユーモアがあり、重たい空気を一気に抜いてしまう柔らかさがある。

実際に『あんぱん』の黒井先生も、今後どこかでふと見せる“人間味”のような表情が、視聴者の感情を揺らす予感がある。ただ怖いだけでは終わらない、そんな余白を感じさせるのも瀧内公美という俳優の力量である。

2025年2月には、日本映画史上初の長尺ワンカット作品『奇麗な、悪』で主演を務めた瀧内公美。実験的な構成ながら、観る者に強い緊張感と集中をもたらす演技は、彼女がすでに“映像のなかの空気”をコントロールする術を身につけていることを証明している。

『あんぱん』という、朝ドラという枠組みにおいても、彼女の演技はすでに異質であり、同時に非常に強い磁力を持っている。黒井雪子が何者なのか、なぜあれほどに厳しく冷徹なのか。のぶたち女子師範学校の生徒たちとの関係のなかで、少しずつその輪郭が描かれていくであろう展開にも注目したい。

「怖すぎる先生」としてSNSを沸かせた瀧内公美。だが、その怖さの背後には、台詞にならない信念、押し殺された願い、歪んだ使命感が複雑に絡み合っている。

だからこそ、私たちは目を離せないのだ。彼女が次に何を語り、何を語らずに背負うのか。『あんぱん』の朝の時間が、ただの物語ではなく、“役を生きる”人の熱に包まれていく瞬間を、瀧内公美という俳優を通して味わえることに、あらためて感謝したいと思う。

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NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
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ライター：北村有（Kitamura Yuu）
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter：@yuu_uu_