1. トップ
  2. 嵐・松本潤の“代表作” 9年前に放送され、スペシャルドラマや劇場版にもなった歴史に残る“日曜劇場”

嵐・松本潤の“代表作” 9年前に放送され、スペシャルドラマや劇場版にもなった歴史に残る“日曜劇場”

  • 2025.5.15

刑事裁判の有罪率が99.9%を誇る日本の司法制度。そこに「残り0.1%の可能性」を信じて立ち向かう一人の弁護士がいる。松本潤演じる深山大翔は、“ふざけているようで、誰より真剣”な男。ドラマ『99.9-刑事専門弁護士-』は、そんな彼を中心に展開される、ユーモアとシリアスが交錯する新時代のリーガルエンタメだ。SNS上でも、その華麗な事件解決っぷりに「スカッとする!」「ふざけているようで一番シリアス」「素晴らしい作品」と評価が高い。

リーガルドラマの金字塔

深山が放つ「事実はひとつですから」という名セリフには、この作品のすべてが詰まっている。確かに、描かれるのは“固い”刑事事件。しかしそこにユーモアを巧みに挟み込み、視聴者の心を引きつけて離さないのが本作最大の特徴だ。笑えて、泣けて、スカッとする。そんな三拍子そろった骨太のドラマは、日曜劇場の歴史に残る快作となった。

まず特筆すべきは、主人公・深山のキャラクター造形だ。松本潤が演じる深山は、いつもマイペースでとぼけた態度を崩さず、隙あらば「いただきまんぐーす」「おかねはおっか」といったダジャレを飛ばすような男。

しかし、その裏では徹底した現場検証と、わずかな違和感すら見逃さない鋭さをあわせ持つ。どこか飄々としていながら、正義感は人一倍。軽妙なユーモアと信念が同居したこのキャラクターを、松本潤が実に自由に、そして繊細に演じている。

undefined
(C)SANKEI

脇を固めるキャラクターたちも粒ぞろいだ。香川照之演じる佐田篤弘はいわゆる現実主義のエリート弁護士だが、深山との掛け合いを通して、次第に“0.1%に懸ける”側へと変わっていく様子が見どころ。さらに、Season1では榮倉奈々、Season2では木村文乃がヒロインとして参加。いずれも“深山チーム”に新たな風を吹き込んでおり、シリーズを通しての化学反応も面白い。

ユニークなのは、事件の説明シーンや会話のテンポの良さにも見て取れる。木村ひさし監督の演出には、連ドラ『SPEC』や『TRICK』の系譜を感じさせる映像ギミックや小ネタが満載で、重たいテーマを持ちながらも、どこかポップで軽やかな空気感を保っている。そこには、「堅苦しいドラマにしたくない」という制作陣の思いが込められているのだろう。

“事実”にこだわるということ

『99.9』という数字が示すのは、決して“希望のなさ”ではない。むしろ、絶望のような有罪率に対し、それでもあきらめず「0.1%に真実があるかもしれない」と信じ続ける人々の姿だ。

印象的なのは、深山の台詞の数々だ。

「99.9%有罪でも、そこに事実があるとは限らない」
「僕にとっては、依頼人の利益よりも事実を明らかにすることの方が大事なんです」

これらの言葉には、弁護士という職業に対する深山なりの矜持が詰まっている。依頼人を“守る”だけではなく、その人の人生を“正す”こと。それがこのドラマにおける“弁護”なのだ。

また、Season2では検察だけでなく裁判官にも焦点が当たる。笑福亭鶴瓶演じる裁判官・川上憲一郎は、正義とは何か、自分の判断とは何かを問われる立場にあり、「誰が本当に正しいのか?」という重層的な構図を生んでいる。単純な正義vs悪ではなく、“制度のなかでどう戦うか”という視点があるからこそ、本作は視聴者にとってリアルなのだ。

遊び心と緊張感を両立するリーガルエンタメの極地

『99.9』は、重いテーマを扱いながらも“エンタメ”としての側面を決して手放さない。その理由のひとつは、“遊び心”にある。深山のダジャレや小ネタはもちろん、各話に仕込まれた伏線やミスリードの回収も秀逸で、毎回「どんな真実が待っているのか?」というワクワクを与えてくれる。

シリアス一辺倒で終わらず、視聴者の感情を緩急自在に引っ張っていく構成は、近年のリーガルドラマのなかでも群を抜いて完成度が高い。

映画版やスペシャルドラマでもその魅力は健在で、深山の過去や新たなキャラクターとの出会いを通じて、作品世界はさらに広がりを見せた。

そして、松本潤という俳優の柔軟性が、このドラマの成功を大きく支えている。近年では大河ドラマ『どうする家康』での硬派な演技も高評価を得ているが、『99.9』の深山は、まさに彼の“演技の振り幅”が最も生きる役だろう。

彼の演じる深山大翔は、法廷という緊迫した空間に、絶妙なユーモアと柔らかさを持ち込む。そのとぼけた表情、力の抜けた語り口、そして唐突なダジャレ。これらは一歩間違えばキャラクターを軽薄に見せかねないが、松本潤はそのギリギリのラインを見事にコントロールしている。

一方で、事件の真相に迫る場面では一変。視線の鋭さ、わずかな表情の揺れ、言葉の間によって、弁護士としての鋭利な一面を際立たせる。依頼人のためではなく、“事実のため”に闘うという深山の信念は、彼の芝居の根底に確かに存在し、それが視聴者の信頼につながっている。

また、シリーズを重ねるごとに深山という人物の内面にある悲しみや優しさも滲み出てくる。松本潤の持つ繊細な感情表現がそれを下支えしており、まさに“コミカル”と“シリアス”の二刀流。『99.9』は、彼の俳優としての振り幅の広さと深さを証明する代表作だといえるだろう。

『99.9-刑事専門弁護士-』は、たとえ可能性がわずか0.1%でも、真実を信じて動く人々の物語だ。その信念は、視聴者の胸に確かな余韻と希望を残す。「ふざけているようで、本気」。そのバランスこそが、“誰もが楽しめるリーガルドラマ”を成立させているのだ。

法廷で、事件現場で、そしてその裏側で。深山たちはこれからも“事実”を求めて走り続ける。あなたがもしまだこのシリーズを観ていないなら、その0.1%の真実を、ぜひ一緒に追いかけてほしい。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_