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いま観ると“発見だらけ”だった8年前の名作…ブレイク前から光っていた“逸材俳優”たちの存在感

  • 2025.5.14
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(C)SANKEI

ゴールデンウィークにドラマ『カルテット』を観直した。そのきっかけとなったのは、吉岡里帆のラジオ番組『UR LIFESTYLE COLLEGE』で、ゲストに出演した向井秀徳(ZAZEN BOYS)が、俳優としての吉岡を知った作品として『カルテット』を挙げていたから。「嫌な女の役」だったと。

『カルテット』が放送されたのは2017年。今から8年前のことで、筆者も当時リアルタイムで観ながら熱狂の中にいたはずなのだが、だいぶ記憶が朧げになってしまっていて、幸か不幸か、もう一度新鮮な気持ちで『カルテット』を楽しむことができた。

男女問わず人を翻弄していく“悪女”有朱は、吉岡里帆の代表作に

言わずと知れた、坂元裕二による脚本の『カルテット』。演出は土井裕泰で、後の映画『花束みたいな恋をした』(2021年)、『片思い世界』(2025年)を生み出すタッグ。そして、プロデューサーにはドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)を手がけることとなる佐野亜裕美を迎えた組み合わせとなっている。

当時、朝ドラ『あさが来た』で注目の的となっていた吉岡が、演技面でも賞を受賞し役者として評価を受けることになったのが『カルテット』だった。吉岡が演じる有朱は、目が笑っていない悪い女だ。あだ名は“淀君”。男女問わず人を翻弄していくその本性が、真紀(松たか子)たちにも影響を及ぼしていく。真紀の過去を無理矢理にでも聞き出そうとしたり、別荘に侵入し真紀のヴァイオリンを盗もうとしたり、ノクターンのオーナー・大二郎(富澤たけし)に色仕掛けをしたり。最終的には玉の輿に乗り、「人生チョロかった!」と高笑いをする、真紀のセリフにもあるように「忘れられない」悪女の役と言える。

ブレイク前の岡部たかしが脇役で出演

2025年の今、『カルテット』を観ると驚くのは意外な人物がゲスト、もしくは脇役として多数登場していること。最終話にゲスト出演した松本まりかをはじめ、大倉孝二、前田旺志郎、菊池亜希子、イッセー尾形、家森(高橋一生)を追う半田と墨田を演じるMummy-Dと藤原季節などがその例となるが、観返していてそのゲストとしても記載されていない人物を見つけた。

それが、第8話に登場している岡部たかし。軽井沢駅前に出店しているたこ焼き屋の主人を演じており、家森の片思いが明らかになる、印象的なシーンに彼はいる。岡部と言えば、朝ドラ『虎に翼』で広く世間に知られ、来期朝ドラ『ばけばけ』で再びヒロインの父親役を演じる名俳優となっているが、それ以前は言ってしまえばバイプレイヤー的な役がほとんどだった。『カルテット』での脇役はそのことを物語っており、8年の歳月が感じられるポイントだ。

坂元裕二が描く夫婦の愛情の変化とすれ違い、価値観の違いを超えた他者との共存

吉岡だけでなく、当時、映画『シン・ゴジラ』を経てブレイクの兆しにあった高橋一生にとってさらなる飛躍を遂げるターニングポイントとなった『カルテット』。意外なことに、松たか子が坂元の作品に出演するのは今作が初めてだった。後の『大豆田とわ子と三人の元夫』、そして映画『ファーストキス 1ST KISS』(2025年)へと繋がっていく、言わば起点となる作品。

坂元が描き続けるのは、普遍的な夫婦像。時間の経過とともに変化していく愛情とすれ違いは『ファーストキス 1ST KISS』でも、『カルテット』でも印象的に描かれている。“第2幕”の幕開けとなる第6話では、幹生(宮藤官九郎)の登場によって、家族と恋人とで欲しかったものがお互いに逆さになっていった真紀の過去が明らかになる。日常の中の詩的会話、全てが意味を持つ巧みな脚本は坂元作品の醍醐味であり、そこにヒューマンサスペンスが絡み合うのが『カルテット』の特色でもあるが、価値観の違いを超えた他者との共存は『花束みたいな恋をした』や『片思い世界』にも通ずる部分に思える。唐揚げにレモンをかけていいか、そんな何気ない描写が第1話と最終話を繋ぐ、本作における重要なテーマにもなっている。


ライター:渡辺彰浩
1988年生まれ。福島県出身。リアルサウンド編集部を経て独立。荒木飛呂彦、藤井健太郎、乃木坂46など多岐にわたるインタビューを担当。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、ドラマ『岸辺露伴は動かない』展、『LIVE AZUMA』ではオフィシャルライターを務める。