TBS火曜ドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』は、2つのことを同時にするのが得意じゃないという主人公・村上詩穂(多部未華子)が、過去のある出来事によって専業主婦という生き方を選び、2歳の娘の育児と家事に奮闘。娘と2人きりの時間は長く孤独で、ママ友を求める詩穂が、働くママ・長野礼子(江口のりこ)や育休中のエリート官僚パパ・中谷達也(ディーン・フジオカ)たちと出会い、それぞれ悩みがあることを知っていくという、共感ポイント満載のドラマだ。
理解し合っていく専業主婦と働くママ
第1話を視聴した際、専業主婦と“ワーママ”両方の苦悩を描出し、最初はお互いによくない印象を抱きつつ、状況や環境を知ることによって、2人が心を通わせていくのが面白いと感じた。現代社会においては、よほど裕福じゃない限り、夫婦が共働きしないと生活が厳しかったり、結婚して子どもができてもキャリアを諦めたくなかったりなど、仕事を続ける女性が少なくないため、礼子が詩穂を「専業主婦は絶滅危惧種」と称したのは、言葉としてはかなりきついが、ドラマ上、そう思っている人もいることを表現したのだろう。
礼子は、営業部でバリバリ働いていたが、育休明けのタイミングで総務部へ異動。夫は忙しいため、家事・育児はワンオペ状態だ。自分で選んだ道だから、仕事も家事・育児もこなさなければと踏ん張っているものの、どちらも中途半端になっているのではないかと悩み、“ゲームオーバー”になりそうなところを、詩穂から手を差し伸べられ、彼女と親しくなった。礼子が、詩穂をひどい言葉で表現したことを反省して謝るという描写があったことに、とてもホッとした。
また、興味深いのは、詩穂と礼子が同じマンションの隣同士に住んでおり、状況が自然と目に飛び込んでくることで、理解し合える関係になっていくところ。昨今、ご近所付き合いがあまり盛んではないことが多いので、本作のタイトルを“家事”ともじった、本来のことわざ“対岸の火事”の意味がより深まっている気がする。このドラマは、専業主婦と“ワーママ”という立場の違いに加え、詩穂が“対岸の火事”に飛び込むことで、人と人とのつながりによって、どれほど心が救われるかも描いていると思う。
主人公の夫が最高すぎる
第2話では、詩穂の夫・虎朗(一ノ瀬ワタル)の小遣いが少ないことに言及しており、家庭が裕福だから詩穂が専業主婦をしているわけではないことが描かれた。詩穂は、せっかく中谷というパパ友ができたのに、中谷から「専業主婦は贅沢です」「ご主人、相当我慢していると思いますよ、かわいそうに」などと皮肉を言われ、虎朗に我慢を強いているのかもと悩む。
ところが、虎朗は「俺の給料ってさ、2人で稼いでるようなもんじゃん」と言い、詩穂が家事・育児をワンオペで頑張っていることを労う。SNSでは「こう言えるパパさん素敵だなぁ」「最高の旦那さん」「神みたいな夫、世の中の何割いるだろうか」などと絶賛されていたが、筆者も虎朗の言葉にグッと来た。中谷には見えていないが、詩穂と虎朗の夫婦の形は理想的だと言える。
そんな中谷は、厚生労働省のエリート官僚で、2年間の育休中。妻は海外に単身赴任しており、中谷も詩穂や礼子と同じくワンオペ状態だ。完璧主義でプライドが高い中谷は、まるで仕事かのように、徹底した育児計画を立て、家事・育児を完璧にこなそうとするが、娘が高熱で痙攣を起こし、パニックに陥る。その際、ここでも詩穂が“対岸の火事”に飛び込んで、中谷を助けるという展開に。専業主婦とエリート官僚という、普通なら接点がなさそうな詩穂と中谷が、育児を通して距離を縮める描写にほほ笑ましさを感じた。
誰かしらに共感せずにはいられない
筆者は、子どもが小さい時は在宅の“ワーママ”だったので、仕事と家事・育児の両立という礼子の悩み、日中は子ども以外は誰とも話さない孤独という詩穂の悩み、さらに、ママ友付き合いに関しては超コミュ障だったため、育児について相談したり語り合ったりできないという詩穂&中谷の悩み、それら全部を経験した。
SNSで「共感しかしない」「あまりにもリアルすぎて刺さった」「ワーママの心理描写うますぎて泣いてしまった」「あるあるすぎて、製作陣すごい」といったコメントを見かけるが、まったく同感で、私のように全方面に共感するのは稀かもしれないが、育児経験のある人は、誰かしらに共感せずにはいられないドラマなのではないだろうか。
独身のキャラクターも非常にリアル
本作に登場する子持ちではないキャラクターで、1人気になる人物がいる。礼子が所属する総務部の同僚で、後輩の今井尚記(松本怜生)だ。彼は、仕事とプライベートをきっちり分ける今どきの若手社員で、子どもの都合でよく早退する礼子に対して、あからさまに嫌味を言ったり、昼休みに礼子が仕事の話をしようものなら、「今井、昼休み中だワン!」というボードを見せて拒否したりする。
どれだけ礼子が大変でも、寄り添う優しさは持ち合わせていないし、理解する気や想像力もなし。冷たいキャラクターのように見えるが、少し誇張しているとは言え、これがリアルそのものなのだろう。いつか、彼が子を持つ時が来たら、妻と協力し合える夫になってくれたらいいのにと思ってしまう。
今井を演じる松本は、2024年度後期のNHK連続テレビ小説『おむすび』に出演したり、2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』に出演が決まったりなど、大注目の若手俳優だ。彼が『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』で演じている今井は、今後どのように礼子に関わってくるのか、できれば良い展開を期待したい。
主演の多部をはじめ、江口、ディーン、さらに一ノ瀬や今井などが奏でるアンサンブルにも注目したい『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』は、第3話以降のストーリーも非常に気になる、見どころの多いドラマだ。
TBS系 火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』毎週火曜よる10:00~
ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP