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ついに最終回!朝ドラ『おむすび』が多くの視聴者に残した“余韻”とは?

  • 2025.3.28
『おむすび』第25週(C)NHK

朝の連続テレビ小説『おむすび』最終週は、翔也(佐野勇斗)がかつての夢を諦め新たな人生を歩む姿に、希望と少しの違和感を残したように見えた。一方、歩(仲里依紗)が家族を失った少女・詩(大島美優)の成年後見人になる決意をする。SNS上では「ギャルを見る目が変わった」など共感の声も。血縁を超えた家族の形を提示し、食べることを通じて未来へとつながる命を描いた本作のラストは「じわじわ泣ける」と視聴者に深い余韻を与えている。

夢を諦めたその先にあるもの

最終週の中心的な展開のひとつは、メジャーリーガーになる夢を諦めた翔也(佐野勇斗)のその後について。身体を壊し、野球を続ける道を諦めた翔也は、義父である聖人(北村有起哉)が経営するヘアーサロン ヨネダを継ぐことを選ぶ。結(橋本環奈)との結婚を通じ、新たな人生を見つけ出した彼の物語は、ある種の「希望」として受け取ることもできるだろう。

だが、その一方で、この翔也というキャラクターがあまりに都合よくおさまってしまったという違和感もぬぐえない。

ドラマの流れのなかで、彼は常に「受け身」だった。夢を断念せざるを得ない状況に追い込まれたあとも、自分自身の強い意志というよりは、周囲の流れに沿って人生を決めていった感が強い。少なくとも、視聴者側からはそう見えてしまっていた。彼自身の内面の葛藤や本音は、ほとんど視聴者には伝わってこず、彼には口を挟むタイミングも、本音を伝える機会すらなかったように見えるのだ。

とはいえ、こうした展開が示した「夢を諦めても人生は続いていく」というメッセージには、共感を覚えた視聴者もいただろう。人生には挫折がつきものであり、当初描いていた夢が叶わなかったとしても、新しい道が拓けることは決して珍しいことではない。このリアリティのあるメッセージが、SNS上でも「じわじわ泣けてくる」と評価された要因でもある。

血縁を超えた新しい家族像

『おむすび』第25週(C)NHK

もう一つの重要なテーマが、歩(仲里依紗)と詩(大島美優)の関係性を通じて描かれた「家族」の再定義である。詩は、結の勤務する病院に入院していた少女で、退院後、自立援助ホームでの生活に馴染めず歩を頼ってくる。歩は、自分が成年後見人となって詩を育てるという重大な決断を下した。

しかし、この決断はそう簡単なものではなかった。成年後見人とは、単に身元を引き受けるだけではない。15歳の詩が18歳になるまで、親としての権利と義務を負い、反抗や問題行動も受け止めなければならない。その重さに気付いた歩は「自分の決意が甘かったのかもしれない」と迷い始める。

歩が運営するアパレルブランド「KING OF GAL」で働き方を教えられながら、詩が少しずつ社会とのつながりを回復していく描写は丁寧でリアルだった。ギャルというイメージの強い歩が、社会的に難しい立場に置かれた少女を支えようと真剣に悩む姿は、視聴者に新たな感動を与えた。SNSで「ギャルを見る目が変わった」という反応が多数寄せられたのも、こうした真摯な描写の積み重ねによるものだろう。

ここで『おむすび』が示したのは、家族とは決して血縁関係だけで築かれるものではない、という新しい家族観だった。歩が詩を家族として受け入れることで、ドラマは血縁を超えたつながりを肯定し、現代社会が抱える家族問題への一つの回答を提示している。

『おむすび』が残したもの

『おむすび』第25週(C)NHK

さらに、主人公の結が勤める病院での描写にも触れておきたい。結は管理栄養士として、病院の栄養サポートチーム(NST)の再開を強く訴える。そのなかで彼女が口にした「食べることは、生きることだけでなく、その家族や未来にも繋がる」という言葉は、本作のテーマを端的に表していた

この台詞は、食という行為が単なる栄養摂取にとどまらず、人と人との繋がりを育み、未来への希望を紡ぎ出すものであることを力強く語っている。『おむすび』というタイトルそのものが「食べること=生きること」を象徴しているように、本作が繰り返し描いてきた食事のシーンには常に、人と人を結びつける温かさに溢れていた。

『おむすび』最終週は、人生における挫折や諦めを描きながらも、その先に広がる新たな道や希望を示した。ギャルが見せる新しい家族像や、食を通じた人間関係の豊かさなど、朝ドラらしい温かな視点が随所に散りばめられ、多くの視聴者が深い共感を覚えただろう。

決して劇的ではないが、じわじわと心に響く温かなメッセージこそ、『おむすび』の真骨頂だったのではないだろうか。その丁寧な人間描写と、現代社会における家族や夢、生き方への新たな視点を提示した本作の余韻は、きっと視聴者の心に長く残り続けるはずだ。

NHK 連続テレビ小説『おむすび』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_