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なぜ、多くの視聴者に響くのか?SNSでも“共感”の声が相次ぐNHK深夜ドラマ

  • 2025.2.28
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『バニラな毎日』第6週(C)NHK

挫折したパティシエが、お菓子作りを通して自分を見つめ直し、再び立ち上がる物語『バニラな毎日』。SNS上では「あたたかくて優しいドラマ」「挑戦する勇気をもらえた」と共感の声が続々と寄せられている。なぜ、この作品は多くの視聴者の心に響くか? 主人公・白井葵(蓮佛美沙子)の視点から、その魅力を探ってみたい。

「この仕事しかない」挫折したパティシエが見つけた答え

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『バニラな毎日』第6週(C)NHK

夜ドラ『バニラな毎日』は、ちょっとしたきっかけで心を疲弊させてしまった人たちが、再び歩き出すまでの過程を丁寧に綴る物語だ。主人公・白井(蓮佛美沙子)は、かつてパティシエとして独立し自分の店をオープンさせたものの、思うように経営が成り立たず、夢を諦めかけた。彼女の挫折は、決して特別なものには見えない。

「寝ないで必死に作ったケーキを捨てるたびに、気持ちがどんどん削られてって。最後の方は正直、こんな仕事もうやめた方が楽だって思うようになって」と語る白井の言葉に、共感する視聴者も多いはず。どれだけ努力しても報われず、やる気も自信も失っていく日々。仕事や夢に向かって頑張る人なら、誰しも一度は経験したことがある感覚だろう。

そんな彼女にとって、料理研究家・佐渡谷真奈美(永作博美)との出会いは大きかった。彼女と始めたお菓子教室を通じて、白井はさまざまな人と関わることになる。最初は戸惑っていた白井だけれど、自ずと「誰かと関わることで、自分の作るお菓子が誰かの心に届いている」と実感するようになったのがわかる。

「佐渡谷さんを通していろんな人と出会って、やっぱり私にはこの仕事しかないって、ようやくわかりました」……こうして、白井は再び自分の仕事に誇りを持ち、もう一度立ち上がることを決意する。

『バニラな毎日』が描く“休むこと”の大切さ

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『バニラな毎日』第6週(C)NHK

このドラマが描いたのは、単なる「再起の物語」ではない。「休むことの大切さ」を真正面から扱った点も、多くの視聴者の心に響いた。

人は、疲れる。心も、体も。けれど「休むこと」に負い目を感じる人は多い。とくに仕事に真剣に向き合っている人ほど、「休んでいる時間がもったいない」「もっと頑張らなければ認めてもらえない」と感じてしまうのではないだろうか。

白井もきっと、そんなふうに「休む」ことが苦手だったはず。彼女は、ひとりで孤独にケーキを作り続け「思ったように売れない」という現実を突きつけられながらも、がむしゃらに続けた。でも、本当に必要だったのは、いったん立ち止まり、自分の気持ちを整理する時間だったのかもしれない

『パティスリー・ベル・ブランシュ』のリニューアルオープンを迎えた当日、店は大繁盛……とはいかなかった。最初から順風満帆ではない描写が、リアルで良い。 ショーケースには、これまで白井が生徒たちと作ってきたお菓子たちが並んでいる。そこには、彼女が過去に悩みながら作り続けていたのとは違う、温かみのある時間が感じられた。

「もうダメかもしれない」と諦めていた過去とは違い、支えてくれる人がいることで前を向けるようになった白井。 「仕事」だけではなく「人との関わり」が彼女を救ったのだろう。「この仕事しかない」と思えるまでに時間はかかったけれど、それは決して無駄な時間ではなかった。

視聴者の多くが共感したのは「休んでもいい」「もう一度、ゆっくり歩き出せばいい」というメッセージだった。疲れたら、一目なんて気にせず、しっかり休んでいい。しっかり休んで、深呼吸して、自分を見つめ直して、立ちたいと思ったら立つ。

『バニラな毎日』が教えてくれたのは、それくらいのリズムとテンポで生きていってもいいのではないか、そんなメッセージだったのかもしれない。



NHK 夜ドラ『バニラな毎日』毎週月曜~木曜よる10時45分放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_