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「続編熱望」「終わるのが惜しい傑作」最終回を迎えた【NHKドラマ】止まらない終了を惜しむ声

  • 2025.2.20

獣医学を通して、動物との向き合い方、ときに命を天秤にかけることのままならなさを学ぶ主人公・聡里(山田杏奈)の成長を追う『リラの花咲くけものみち』(NHK)。全3話の最終回、聡里は最愛の祖母・牛久チドリ(風吹ジュン)の死と向き合うことになる。祖母の死を経験した彼女の居住まいが示した問いは、動物愛と人間愛の違いについて投げかけるものに感じられた。

祖母の死が示すものは?

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『リラの花咲くけものみち』2月1日放送(C)NHK

『リラの花咲くけものみち』1〜2話にかけて感じ取れるのは、人から動物に向けられる研ぎ澄まされた愛情と、「動物が好きだから」という理由一点のみで獣医学者を志す、一種のエゴだ。

主人公・聡里は、かつての愛犬・パールに対し並々ならぬ愛情を注いでいた。パールと過ごした時間や悲しい別れがあったからこそ、聡里は獣医学の道に可能性を見出したのだろう。パールのことが好きだったから、動物が大好きだから、命を救う獣医学者になりたい。そのモチベーションそのものは、曇りなき純粋さを持っている。

しかし獣医学に触れるにつれ、ときには「片方の命を救うために、片方の命を諦める」そんなままならない選択が必要とされる現場もあると、聡里は知った。動物への愛情だけではどうにもならない現実と、どう折り合いをつけていくか。「動物が好きだから」だけでは説明しきれない現状もあることを、彼女は肌身で痛感していく。

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『リラの花咲くけものみち』2月1日放送(C)NHK

そんな彼女が、祖母・チドリの死とも向き合うのが第3話だ。

いきなりに思えたチドリの死は、しかし、これまで彼女が聡里には知らせず秘密裏に薬を持っていることが知れるシーンなどから、察することができたかもしれない。チドリ自身、孫の聡里に心配をかけまいとして、病気の治療中であることを隠していた。聡里にとって、その愛情はどこか寂しいものに感じられたかもしれない。

この世には、人間がなんともできない死がある。動物の命に向き合う聡里は、それを十分に知っていただろう。祖母の死を間近に体験したことで、かつそれをきっかけに、疎遠になっていた父から筋違いの配慮を受けたことで、ますます強固になる思いがあったのではないか。

それは、動物と人間それぞれに向けられる愛情に、貴賤や優劣はないということ。ましてや命の軽重など存在しないということ

しかし聡里の父は、3話の冒頭で「パールは犬だ、人間じゃない」と口にする。彼のなかではハッキリと、両者の命に優劣や軽重があるのだろう。根底の部分から相容れない父に対し、聡里はしっかり礼を伝えたうえで(離れて暮らすようになってから、父から仕送りを受けていた事実がある)、「さようなら」と袂を分けてみせた。聡里の成長の片鱗が見えるシーンに、SNS上でも「また泣いた」「続編熱望」「3回で終わるのが惜しい傑作」「短すぎるよ…」と3話での終了を惜しむ声がある。

死と対比して描かれる生と、その先

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『リラの花咲くけものみち』2月15日放送(C)NHK

チドリの死と対比するようにして、子牛が産まれてくるシーンが描かれる。酪農家はここ約15年でおよそ半減しており、餌の高騰から経営状況も悪化している現実の問題まで、しっかり取り込まれていた。

子牛が無事に産まれなければ、経営状況の悪化に繋がる。きっと、獣医学に従事する前の聡里が聞いたら、子牛の命の前にお金の問題か、と気分を害したかもしれない。

しかし、今の聡里は違う。獣医学を通し、彼女には動物だけではなく、その動物の向こう側にいる人たちが置かれた状況まで見えるようになった

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『リラの花咲くけものみち』2月8日放送(C)NHK

人間の都合だけで、動物の命について考えたり、ましてや生死を左右することは許されない。そのうえで、動物の命と人間の命を並列に捉え、ともに健やかに共存していくためにできることは何か。そのために獣医学には何ができるのかを、この物語は示してくれている。

死と対比して描かれる生と、その先の景色。聡里は実習を経て、大動物の獣医師になることを決めた。動物とともに生きる人間のことだって、守りたい。聡里が見せてくれたのは、動物も人間も分け隔てない、大きな愛だった。



土曜ドラマ『リラの花咲くけものみち』 毎週土曜よる10時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_