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「太ったのは母のせいだ」SNSが浮き彫りにした“ルッキズム”問題を取り上げた朝ドラ『おむすび』

  • 2025.2.15

自分の子どもを所有物のように扱う“毒親”は、ドラマや映画などでたびたび描かれてきた。たとえ愛情深い親であっても、強すぎる愛が支配になってしまう危険性もある。連続テレビ小説『おむすび』の第19週「母親って何なん?」に登場したのは、低栄養状態で病院に運ばれてきた曽根麻利絵(桧山ありす)。彼女は加工した自身の写真をSNSにアップし「いいね!」をもらうことに執心していた。その根っこにあるのは、SNSが浮き彫りにしたルッキズムの概念だ。

ルッキズム問題に切り込む『おむすび』

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『おむすび』第19週(C)NHK

人の見た目や生まれついた身体的特徴で他者を差別する考え方「ルッキズム(lookism)」。もともとアメリカのメディアが広めたとされているルッキズムという概念は、日本でもよく聞かれるようになった。その背景にインターネットとSNSの浸透があるとされている。

一人一台スマホを持っている時代。SNSを開けば、望んでも望まなくとも、芸能人やインフルエンサーを始めとする華々しい存在が視界に飛び込んでくる。誰もが目を引く美人やイケメンに「いいね!」が集まっているのを見ると、やはり美しさが善なのか……と刷り込まれても仕方がないのでは。そして自ずと、自分自身と比較するようになる。

『おむすび』の主人公・結(橋本環奈)が管理栄養士として働く病院に入院してきた麻利絵も、可愛くなりたい! と願う少女だった。目を大きく、足を長く加工した写真をSNSにアップしては「いいね!」がつくのを待つ日々。思春期特有の、他者の目を異常に気にしてしまう自意識がそうさせているのかと思いきや、事態はもう少し込み入っているようだ。

麻利絵が低栄養状態になるまで食事を拒み、痩せたい、細くなりたいと切望する理由は、何もSNSで「いいね!」が欲しいからだけではない。もともとぽっちゃり気味だった体型を、片思いしていた相手に揶揄されたのが直接の原因だったよう。

視聴者からすれば「体型を笑うような男なんて願い下げろ!」と言いたくもなるだろうが、麻利絵の心境はそう簡単ではない。彼女自身、太ってしまった理由を「母親のせい」だと思っている

麻利絵の母の実家は決して裕福ではなく、存分にお腹いっぱい食べられる環境ではなかったらしい。娘にはそんな思いをさせたくない、と願う母心で、たくさんの料理をつくって食べさせていたのだとか。

麻利絵は子どもながらに無理をして食べていて、そのせいで太ってしまった。恋する相手にバカにされたことで、傷心を重ねた彼女は無理なダイエットに走ってしまったのだろう。SNS上では「娘を支配したい過保護親?」「母のせいでぽっちゃりに……」と、麻利絵に同情する声が多い。

悪いのは“親”なのか?

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『おむすび』第19週(C)NHK

「太ったのは母のせいだ」と主張する麻利絵だが、それは少々、思春期にありがちな視野狭窄状態かもしれない。

そもそも「太っている状態」を揶揄する行為自体、褒められたものではない。そして「太っている状態」を善悪や美醜で判断する考え方そのものが、社会が長い時間をかけて積み上げてきてしまった“罪”とも言える。

よく言われることだが、美の基準は時代によって変わる。有名な例として挙げられるのは、平安時代の美の基準だ。現代でいうぽっちゃり体型は、平安時代ならむしろ美の象徴とされていた。一重瞼よりも二重瞼が良いとされる現代、「プチ整形」と称して二重瞼にするケースも多いが、平安時代なら切長な一重が何よりも美しいとされていた。

今を生きる人間にとって、大昔の美の基準なんて何の慰めにもならないだろう。しかし、ルッキズムの概念が少しずつ浸透しているなか、世間が喧伝する美の基準にとらわれない「自分なりの美の基準」を形づくることは、そう難しくはないはずだ。

社会に、時代の流れに、踊らされない確固たる自分。それこそが美しい理想像だと捉える考え方は、珍しいものではない。

NHK 連続テレビ小説『おむすび』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_