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「朝ドラでもよかったのでは?」「次回で終わりなの寂しい」作品のクオリティを絶賛する多くの声!NHKドラマ

  • 2025.2.13

山田杏奈主演のNHKドラマ『リラの花咲くけものみち』2話が放送された。藤岡陽子の同名小説を映像化した本作について、原作はもちろんのこと、ドラマにも絶賛の声が向けられている。引きこもり時代を乗り越え、獣医師になる夢のため北海道で獣医学生になった主人公・岸本聡里は、動物の命を救うため、ときに飲み込まねばならないつらい現実があることを知った。そんな彼女が次に向き合うのは?

聡里が立ち直れた理由

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『リラの花咲くけものみち』2月8日放送(C)NHK

主人公・聡里(山田杏奈)が獣医師を志し、広大な土地・北海道で獣医学生として勉強に励む様子を描いた『リラの花咲くけものみち』。1話の終盤には、出産を控えた母馬の面倒をみていた聡里たちが、つらい現実に直面するくだりがあった。命を天秤にかけるような行為に、聡里は「無理です」と告げ、東京へ戻ってきてしまう。

聡里の祖母・牛久チドリ(風吹ジュン)は、なぜ帰ってきてしまったのか、と聡里を責めることなく、黙って彼女を受け入れる。特製のオムレツをつくるなどして、久々に祖母と孫の時間を過ごすなか、話は36歳で亡くなった聡里の母・有紀子(安藤聖)に及んだ。

生まれつき、心臓に持病を持っていた有紀子。母馬の出産について、忘れがたい記憶にとらわれていた聡里は、実母の出産についても「怖くなかったのかな」と疑問を持つ。チドリが語るように、心臓病を抱えた有紀子にとって、出産どころか妊娠でさえも命が危ういとされていた。

しかし、有紀子は言ったという。「今までの時間はぜんぶ、強くなるための時間」「怖がっていたら、夢を叶えられない」と。無事に聡里を産むという夢を叶えた有紀子は、36歳で亡くなってしまった。しかし、恐怖を乗り越えて夢のために行動した事実は、聡里の存在そのものが証明している。

聡里は、かつて引きこもりになってしまった自分を「逃げた」と解釈しているようだ。北海道から「逃げてきた」自分だけれど、逃げたままではいたくない。そんな強い気持ちで前を向き直すことができたのは、母の強さに想いを馳せたからだろう。

動物愛だけじゃない『リラの花咲くけものみち』

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『リラの花咲くけものみち』2月8日放送(C)NHK

本作のテーマは、動物の存在そのものや、動物に向ける愛情、動物と人間の向き合い方などに回収されるものだが、それだけではない。聡里を始め、獣医学を勉強する生徒たちの人物造形も秀逸な作品である。

聡里の友人・梶田綾華(當真あみ)は、いわゆる“医者の家系”に生まれた。医学部に進んだ二人の兄にならい、自身も医学部を受験したが願い叶わず。父親からは「女の子だから、エスカレーターで付属の女子大に行けばいいって」と言われる始末で、そもそも期待さえされていない現状にモヤモヤした不満を抱えている。

聡里は言わずもがな、引きこもっていた過去の自分を、まだどこか負い目に感じているようである。それぞれ事情のある綾華と聡里だが、『リラの花咲くけものみち』が傑出しているのは、何か特別な事情を抱えているわけではない人物も同列に扱い、軽んじていない点にある。

モヤモヤを言葉にして吐き出した綾華と聡里に対し、同じく同級生の久保残雪(萩原利久)は「実を言うと、僕も……」と切り出すが、すぐに「……ってここで何かを打ち明けたいところだけど、ないし」と続ける。彼には、獣医学を学んでいることで発生し得る不安や戸惑い、悩みは一切ないらしい。

映画やドラマで描写される、あらゆるキャラクターにとって、この「背負うものが何もない」描写は、平坦なように見えて画期的で斬新だ。不安や戸惑い、悩みのない人間はどこか“浅さ”を感じさせるものだが、現実には意外とそういった人物もいる。そして、他者からそのようにマイナス視されること自体、ストレスに感じる場合もあるのだ。

『リラの花咲くけものみち』は、動物愛を描き出す以上に、人間が持ちうる感情の機微に迫っている。動物はもちろん、どんな人間だって、そのままの状態で存在していてもいいのだという、受容の物語にも受け取れる。SNS上でも「次回で終わりなの寂しい」「朝ドラでもよかったのでは?」と、作品のクオリティを絶賛する声が多い。

動物への愛情と、人間のエゴは両立するか?

1話の終盤で描かれた「胎児切断術(胎子切断術)」と同じように、動物の命を守るため、人間がおこなう医術や処置について触れているシーンが2話にもある。聡里が手伝いに入ることになったナナカマド動物病院の院長・久恒先生(山崎静代)が、「供血犬」について説明する場面がそれにあたる。

供血犬とは、病気または怪我をして輸血が必要になった犬のために、血液を提供する犬のことを指す。久恒先生によると「今の日本には、動物のための血液バンクというものはないから、病気や怪我をした犬に、血を分けてくれる犬が必要」なのだとか。

血液を提供する役割を持った犬と考えると、どうしても人間のエゴを押し通しているように感じてしまう。しかし、これもまた「別の命を救うため」に必要な対応なのだ。果たして動物への愛情と、人間のエゴは両立するのだろうか。この命題は、本作に通底する大きなテーマでもある。

聡里の先輩である静原夏菜(石橋静河)が言うように、「動物が好きってだけじゃ、乗り越えられないこともある」。『リラの花咲くけものみち』は、聡里が獣医学や、実際に動物たちと触れ合う過程を通して実感するように、視聴者もまた動物たちとの接し方を再考するきっかけとなるドラマだ。



土曜ドラマ『リラの花咲くけものみち』 毎週土曜よる10時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_