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【銀行員は見た】「損したのはお前のせいだ!」顧客からのありえない“理不尽カスハラ”の実態

  • 2025.3.6
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写真:photoAC(イメージ)

昨今社会問題化している、顧客からの度を超えたクレームや言動を企業が受ける「カスハラ(カスタマーハラスメント)問題」

なかでも銀行員は営業活動や窓口業務で時には常識を逸脱したようなクレームなど、まさに「カスハラ」とも取れる言動に遭遇することも少なくない職業です。お金を扱う仕事なので、お客様から厳しいお叱りを受けるのは業務上避けられない部分でもありますが、中には人格否定や脅迫も取れるような言動もあります。

そこで今回は、実際に筆者が銀行員として体験した「過剰なクレームエピソード」をご紹介し、その対処法とカスハラに対応するメンタルを醸成するためのマインドセットを解説します。

マインドセットとは「その人の性格や環境から形成された考え方や価値観」といった意味です。マインドセットは経験や学習環境に左右されるため、人によって困難な状況に陥った時の対応が異なり、その後の成長につなげるか、あきらめて立ち止まってしまうかに分かれます。こうして、どのようなマインドセットを持っているかにより、状況による対応力や適応力に差が出てくるのです。

では早速、筆者が経験したクレームと対処の事例をご紹介いたします。

銀行員が体験したカスハラエピソード

今回事例として紹介するのはAさん(40代・男性)です。

以下に、時系列的な流れをまとめました。

<時系列>

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① 自身で見つけた商品を気に入り申込みを希望

Aさんは筆者の勤める銀行のホームページでご自身で調べられて、「新興国株式ファンド(投資信託)」を強く希望されていました。

 

② 選んだのはハイリスク・ハイリターンの商品だった

Aさんがチョイスした新興国株式ファンドは対象となる企業の多くが中南米の会社で、当時はまだ新興国でしたが、逆にそれ故に預金利率や債券価格は高めで「期待利回りは年10%以上」と記載されていました。

 

③ Aさんは「投資初心者」。しかも焦っていた

Aさんは株式などの投資経験は無く、これまで預金以外にリスクのある資産運用と言える経験はありませんでした。もちろん今回希望する投資信託自体も初めてで、たとえば期待利回りはあくまで想定される運用が好調な場合のパターンであり、悪く言えば「絵に描いた餅」であることすら知らなかったのです。そのいっぽうで、対象となる投資信託の申込期限があと2週間後であったため、Aさんは焦っていました。

 

銀行員の筆者は“一息ついて考える”よう促した

そもそもこの投資信託は、投資歴や保有資産を聴取したうえで、ある程度の投資経験を持つ人、いわば「ベテラン投資家」のお客様であれば販売するようになっていました。とはいえ、販売する側が一方的に断ることはできませんので、私はお客様に対し、暗に「やめたほうが良い」ということを伝え、即決しないで熟考するよう促しました。そしてAさんも、その日はお帰りいただくこととなりました。

 

⑤ 後日、Aさんの考えは変わらず引き続き購入を強く希望された

しかし数日後、再度来店されたAさんの考えは変わらず、やはり当該商品を強く購入希望されました。筆者は上司にも相談しましたが、お客様が強く希望されるならと(内心では気が進まなかったのですが)購入手続きの対応をしました。

 

⑥ 運用成績が悪くなると態度が豹変

それから数ヶ月が経過した頃、Aさんが購入した商品の投資対象国で政情が不安定となり、期待利回りどころか、このまま解約すると大きな損失となってしまう状況になりました。するとAさんの態度は豹変し「損したのはお前のせいだ!」と私の窓口に詰め寄られて来たのです。

 

私の対応、銀行の対応、そして顛末

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写真:photoAC(イメージ)

これはお客様からの苦情案件なので、社内ルール通りに対応いたしました。

銀行などの金融機関はお金を扱うという性質上、今回のようなクレームや苦情には非常に敏感です。そもそも、適切な対応をすることが重要であり、問題を隠蔽することは認められません。なぜなら、問題が明るみになればさらに大きな問題に発展することが明白です。それよりも謝罪なり対処(場合によっては訴訟で争うことも含め)を適切に行い、銀行に非があれば謝罪して対処すれば良いわけで、とにかく隠蔽せず早急にエスカレーションすることが重要なのです。

今回も苦情として筆者と上司、そして本社のクレーム専門担当などが順を追って話を聞き、Aさんの対応をしました。ただし、販売担当者である筆者が「やめたほうが良い」と言ったにもかかわらず、お客様が強く希望されたという経緯があったため、銀行は対応に落ち度があったとは考えられないという姿勢で謝罪も補填もしませんでした。

Aさんは当初「裁判で訴える」と発言し、また「俺の親戚には◯◯がいる」など地元の有力政治家の名前までちらつかせたのですが、それに銀行が揺るぐことはありませんでした。

担当者として筆者は、Aさんと面談してきたすべての会話内容などをしっかりと業務日誌などで電磁的に記載し保存していたため、Aさんの自己判断で投資したものであり、銀行の説明や販売対応には問題ないことが証明されていました。ちなみにこうした面談記録は業務上で必須とされ、これは永久保存されて万一裁判に発展したときの反論材料になります。

最終的な顛末としては、騒ぐだけ騒いだ後、Aさんの態度は泣き落としへと変わりました。「全額補填は無理でも半額だけでも補填してほしい」と言ってきましたが、もちろんそれにも対応しませんでした。その後、解約することもできない「塩漬け」の状態となりましたが、5年程度の後に損切りで解約したと風の便りで聞きました。

行き過ぎたクレームに立ち向かうには〜マインドセット醸成

「お客様は神様」といった風潮は根強く残っているため、カスハラ問題もたびたび発生しています。

しかし、銀行はリスク商品販売を筆頭に、顧客に対する説明や対応をすべて記録しています。また、日頃からクレームのロールプレイングや、他部署で起きた事例など、行き過ぎたクレームの内容と解決方法などを社内文書で共有しています。クレーム対処専用の研修まであります。これらの教育と、過去の事故の経験の積み重ねで、銀行員のメンタルは鍛えられています

しかし、それでも個人的に損失を補填してしまい、結局それがバレて(これは会社への背任行為になりかねないほどの不祥事です)、辞めていく人もいます。

経験や研修が銀行員の強いメンタルを育てる

今回紹介した例は、お客様にも問題があるとは言え損していることは事実です。筆者は今でもAさんのエピソードを思い起こすと複雑な気持ちになります。

しかし個人的感情は別にして、銀行員はメンタルを経験で鍛えられ、研修などによって銀行からも鍛えられています。



ライター:加藤隆二

銀行に30年間勤務、まだまだ現役の銀行員。住宅ローンやカードローンなど借入全般の相談、あるいは返済が困難なお客様からの相談にも対応してきました。自慢できるような実績はありませんが、銀行員として数多くのお客様と向き合い、お金にまつわるさまざまな相談に応えてきたことが自慢です。

※サムネイル画像出典:photoAC(イメージ)

※本記事の内容はライター自身が体験したエピソードをもとに構成されており、すべてに当てはまるものではありません。また、本記事に掲載されている内容は、あくまで情報提供を目的とするものであり投資行為等の勧誘や、投資による利益を保証するものではありません。最終的な投資判断はご自身で下していただくよう、お願いいたします。