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なぜ『御上先生』は、これほどまでに話題になっているのか? ドラマが“提示する題材”に引き込まれる視聴者が続出

  • 2025.2.20
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日曜劇場『御上先生』第3話より (C)TBS

松坂桃李主演のTBS日曜劇場『御上先生』が話題だ。日本の教育システムの問題など、現代社会に対して挑戦的なメッセージを投げかける内容で、毎週視聴者に刺激を与えている。

文科省から、私立の名門進学校に特別派遣された主人公・御上孝は、受験を控える3年生たちに、学校や社会が抱える問題に対して疑問を投げかける。受験を控える生徒たちは、授業内容に関係ないことに時間を使う御上に反発していたが、次第に生徒たちは、真剣に社会の問題に対して議論し始め、画一的な教育に染まった自分たちを見つめなおすようになる。

そんな社会問題に一石を投じる側面と、とある刺殺事件と文科省の天下り問題など考察要素が絡み合う構成で、視聴者を巧みに引き込む構成となっている。

アメリカでは原爆をどう教えている?

第1話で御上は、生徒たちに真のエリートとは単にいい会社に入ったり官僚になったりする「上級国民」のことではなく、弱者に寄り添える者だと言い、日本の教育システムを批判した。そんな彼の授業は、容易に答えが出せない複雑な問題を生徒たちに投げかけていくものだ。受験競争に勝利することを目的に勉強してきた生徒たちにとって、それは面倒なことであるが、一部生徒にとっては目の覚めるような新鮮なことでもあった。

第2話では、ピューリッツァー賞を受賞した「ハゲワシと少女」という有名な写真を引き合いに、報道のあり方についての問いを投げかける。この写真を撮影したケビン・カーターは写真を撮る暇があるなら、少女を助けるべきだという批判にさらされ、自死を選んだ。しかし、この写真は現地の悲惨な状況をどんな言葉よりも雄弁に物語る。

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日曜劇場『御上先生』第3話より (C)TBS

また第3話と4話では、教科書検定について生徒たちに議論を促している。教科書検定とは、文部科学大臣が民間で制作された教科書を審査し、適切かどうかを認定する制度だ。クラスの東雲という女生徒の父は、かつて教科書検定に通っていない教材を中心にした授業を行っていたことで教職をクビになっていた。だが、彼の授業は非常に評判もよく、生徒たちの成績も良かったと語られる。

そんな教科書検定の是非を生徒たちに考えさせ、自分たちの知る常識が必ずしも正解ではないことを学ばせようとする。視聴者もまた、御上の問いについてドラマを見ながら考えることになる。

4話の内容で、日本人にとって最も馴染み深い問いは、「原爆投下をアメリカではどう教えているのか」だろう。御上は帰国子女の倉吉(影山優佳)にそれを答えさせるが、アメリカと日本では原爆投下についての教育はまるで異なっており、それを知った上で思考していく態度を生徒に、そして視聴者にも求めているのだ。

御上の真の目的とは?

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日曜劇場『御上先生』第3話より (C)TBS

そんな教育に関する深い問いかけとともに進行するのが、御上を巡る謎だ。

第1話で、御上は報道部の部長・神崎(奥平大兼)に、彼がスクープした教師の不倫と、国家公務員の試験会場で起きた刺殺事件、そして御上が巻き込まれた官僚の天下り問題がつながっているかもしれないと、提示する。

その後の展開で、刺殺事件の犯人は神崎が不倫を暴いた女性教師・冴島の娘であることが判明。校内不倫と刺殺事件には直接的なつながりがあったが、それに天下り事件がどのように絡んでいるのか、今後の展開が気になるところだ。

また、物語が進むにつれ、学校には倭建命(ヤマトタケル)を名乗る人物から怪文書のFAXが届くようになる。その怪文書が何を示すのか、誰が送っているのかも今後物語の重要なカギとなりそうだ。

同時に、御上はよく誰かと連絡を取り、何らかのプランを遂行しているようなのだが、それは何なのかも考察要素として大きなものとなっている。御上の真の目的は何か、彼の行動と彼の兄の過去にどんなつながりがあるかなど、気になる謎が数多く残されている。

こうした考察要素が物語を推進するだけでなく、テーマの教育問題にどのようにつながっていくのかも注目したいところだ。

堀田真由がまさかの殺人犯役

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日曜劇場『御上先生』第3話より (C)TBS

本作は主演の松坂桃李を始め役者陣の好演が光る。報道部の神崎を演じる奥平大兼の危うさもはらんだ純粋な正義を体現する芝居が物語に緊張感を与えているし、帰国子女の倉吉を演じる影山優佳はイントネーションも含めて外国帰りのリアリティを体現している。

文科省の御上の同期、槙野役の岡田将生とその上司・塚田を演じる及川光博の怪しい雰囲気も作品に奥行きを与えている。

ひときわ鮮烈な印象を与えるのは、国家公務員試験会場で刺殺事件を起こした真山弓弦を演じる堀田真由だ。冒頭の刺殺事件のシーンでは、性別をわからないように演出されていたこともあってか、正体が女性であることに視聴者からも驚きが寄せられ、底の見えないその佇まいが強烈な印象を残している。

この役は、企画段階では男性が想定されていたそうだが、堀田真由の芝居を見てプロデューサーが女性に変更したのだという。これまで彼女が演じてきたどの役とも異なるタイプのキャラクターでこれまでのイメージを覆すパフォーマンスを披露している。

生徒役にはほかにも有望な若手が揃っており、芝居合戦を見るのも楽しい作品だ。社会的なテーマと娯楽としての考察に、演技も見もの。毎週続きが気になる作品なのは、間違いない。

TBS系 日曜劇場『御上先生』 毎週日曜よる9時



ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi