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大河ドラマ、“今後のカギ”になる超重要人物とは? 『べらぼう』で明らかになった横浜流星の俳優としての真価”

  • 2025.2.21

NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、もの作りに情熱を傾ける男の物語だ。戦国時代や幕末のような動乱の時代が舞台ではない、戦のない泰平の時代を舞台にした大河ドラマはどのようなものになるのかと、放送前に期待を寄せたが、主人公・蔦屋重三郎(蔦重)はストレートな情熱で動く男で、見ていて気持ちがいい。蔦重を見ていると若い頃に夢を追いかけていた頃の楽しかった時代を思い出させてくれるし、去年から同人誌作りを始めた、筆者の今の気持ちを代弁してくれているようでもある。

横浜流星演じる蔦重の魅力

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1月19日放送(C)NHK

蔦重を演じるのは、若手実力派俳優の横浜流星。NHKのドラマに初出演でいきなり大河ドラマの主役に抜擢された彼は、度胸も思いやりもある、情熱的な主人公を快活に演じている。

特撮ヒーロー作品『仮面ライダーフォーゼ』や『烈車戦隊トッキュウジャー』で注目された後に恋愛ドラマで脚光を浴び、若手スターとして注目された横浜流星が演技力に磨きをかけていったのは、藤井道人監督との出会いが大きいだろう。『青の帰り道』や『ヴィレッジ』、昨年の『正体』など多くの作品でコンビを組んでおり、2024年報知映画賞の主演男優賞も受賞。今、一番勢いに乗っている俳優の一人だろう。

『ヴィレッジ』や『正体』では陰のある役柄で複雑な心理を巧みに表現していた横浜流星だが、今回の大河ドラマでは自分の情熱にまっすぐな男をエネルギッシュに演じている。客足の減り続ける吉原で女性たちが苦しんでいる、それを何とかしたいという思いで吉原細見(案内所のような冊子)を工夫し、一般書店では入手できない限定本を作るなどの経験を通して本作りの楽しさを学んでいく。この時の、横浜流星の目の輝かせ方が実に良くて、純粋な喜びに溢れていた。

蔦重の本の作り方も現代に通じる部分が多々あるのも面白い。第3話で蔦重は、入銀という事前に出資者から広く資金を集める方法で本を作ったが、これは現代のクラウドファンディングに近く、さらにその本を書店で流通させずに入手先を限定させるというやり方を試みており、同人誌のようだと思った。自分だけの本を作りたいという気持ちと、特別感のある本を入手したいという気持ちは、コミックマーケットや文学フリマなどの同人誌即売会が盛況な現代にも通じる感覚だ。かくゆう筆者も同人誌を作って即売会に参加しているので、蔦重の気持ちがとてもよくわかったし、すごく親近感を覚えたのだった。

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』2月16日放送(C)NHK

蔦重を見ていて感心するのは、独りよがりではなく、色々な人の意見を聞けることだ。第7話では、地本問屋の仲間に入れてもらう条件として、新たな吉原細見を従来の倍売ることを提示された蔦重が、吉原中からアイディアを募集。その中から、薄くするというアイディアを採用していた。自分の夢実現のためながら、他者の意見を尊重できるのは、プロデューサーとして稀有な能力だ。

それでいて、自分の意地を通すべきところでは、威勢のいい啖呵を切って周囲を説得してみせる。女郎屋を仕切る親父連中に「どうせ本を作るなら、女郎たちのためになる本を作らないとだめだ。それが女の股で飯食ってる忘八の、たった一つの心意気じゃねえですか」と、自分が版元になる意義を叫ぶ蔦重の信念に胸が熱くなる思いがした。

幕府の権力争いは蔦重にどう影響するか?

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1月19日放送(C)NHK

蔦重の物語と並行して描かれるのは、時の江戸幕府内での権力争いだ。老中首座の松平武元は三代の将軍に仕えた重鎮で伝統を重んじる保守的な人物だ。一方、老中の1人、田沼意次は足軽出身ながら、その実力でのし上がってきた。田沼は商業重視の政策で江戸の好景気を作り出し、新たな改革にも意欲的な人物だ。田沼の改革が気に入らない武元は様々な権謀術数を用いて、田沼を窮地に追い込もうとしてくる。

田沼は、どちらかと言えば、経済重視で自由な経済活動を促進していこうとするタイプ。一方、武元は自らの派閥の権力を維持するために幕府の財政などは二の次と考えている人物。この権力争いによって江戸の経済にどんな影響が起き、それが蔦重の版元としての活動に影響してくるのか、今後の展開で描かれることになるだろう。

この幕府の権力闘争を体現する役者陣の熱演も見逃せない。田沼役の渡辺謙、武元役の石坂浩二といった大ベテランを筆頭に、真島秀和や生田斗真に寺田心、大奥の冨永愛など、強烈な存在感を発揮する役者が揃い、腹の探り合いをする様は演技の醍醐味に溢れている。

気になる唐丸の正体は?

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1月5日放送(C)NHK

今後の展開でカギとなりそうなのは、唐丸の行方と正体だ。

唐丸は、第1話冒頭の吉原大火災の時、蔦重が助けた少年だ。記憶を失って身寄りがないため、蔦重が世話していたのだが、かつての唐丸を知る悪党に利用され、盗みの片棒を担がされてしまう。その後、唐丸は失踪したが、今後の蔦重にとって大切な存在となりそうなのだ。

なぜなら、唐丸には絵の才能があるからだ。蔦重は唐丸の才能を見込んで「俺がお前を絵師にしてやる。謎の絵師として売り出すんだ」と夢を語るシーンがある。この「謎の絵師」というキーワードで歴史に詳しい視聴者はざわついた。

日本史の中で、謎の絵師と言えば東洲斎写楽が思い浮かぶ。しかも写楽は蔦重がプロデュースしたことで知られているからだ。唐丸の正体について葛飾北斎や喜多川歌麿の名前を唐丸の正体と考察する人もいる。「謎の絵師」というキーワードからして、写楽の可能性が高いと筆者は考えているが、いずれにしても唐丸の再登場がいつになるのか気になるところだ。

蔦重の情熱と唐丸の才能が、再び邂逅する時は、このドラマが最高潮に盛り上がるところになるだろう。今後、どのように唐丸が再登場するのか、今から待ち遠しくてたまらない。

NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』 毎週日曜よる8時放送
NHKプラスで見逃し配信中



ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi