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月9ドラマ、スリルのある緊張感に釘づけ…! 視聴者が思わず見入る“想像させる演出”のすごさ

  • 2025.2.17

月曜9時に放送されているテレビドラマ『119 エマージェンシーコール』は、消防局の通信指令センターを舞台にした人間ドラマだ。そう書くとどんな場所か分からないかもしれないが、119番の通報を受け付ける部署である。

救急車や消防車が必要とされる緊急時にかける番号であることは、日本人ならほとんどの人が知っている。だが、その電話の向こう側でどんな人々が、どんな思いで働いているのかを知る機会は少ない。このドラマは、そんな身近なようで遠い存在である指令管制員たちのリアルに迫る物語だ。

音だけで想像させて緊張感を高める「音のドラマ」

本作の主人公は、横浜市消防局・司令課3係の指令管制員として働く新人・粕原雪(清野菜名)。前職は銀行員だった彼女は、幼い頃に119番の管制員の声に助けられた経験を持つ。

本作は、事件現場ではなく、指令センターが舞台のドラマだ。現場の様子も描かれるが、それ以上に重点が置かれるのは、電話越しの音と声だけで状況を判断しなければならない管制員たちの仕事ぶり。「火事ですか、救急ですか」という第一声から、パニックに陥っている通報者を落ち着かせながら、現場の状況を聞き出し、迅速に救急車や消防車の出動へとつなげていく。

事故や火災に巻き込まれれば人はパニックになる。その中で今自分がどこにいるのかを正確によどみなく伝えることは難しい。携帯電話の位置情報とわずかな声の情報を頼りに、必要なことを把握する「耳の能力」が重要な職業であり、それ故、本作は視聴者にも「音だけで想像させる」展開も取り入れられる。

第一話では、ショッピングセンターで火災が発生。取り残された幼い女の子からの通報で、複雑に入り組んだショッピングモールのどこに女の子がいるのかを割り出さねばならない。人一倍耳が良い粕原は、小さな駆動音を頼りに掃除ロボットが近くにいることを聞き分けてみせ、現場に伝えて、女の子の救出に成功する。

音だけでこれを聞き分けようとする姿を映し出す映像は、観ているこちらもじっと音に集中して緊張感が生まれる。判断を間違えれば人の命に関わるだけに、音だけしか聞こえない状況は、視聴者にも強いスリルを与えており、本作は「音のドラマ」と言え、その音の演出に特徴がある。

時にはいたずら目的のジャンクコールもかかってくる現実も描かれる。また、通報者が誠実な人物とも限らない。時には女性蔑視的なことを言う通報者もいるなど、ストレスの溜まる仕事であることも描かれる。第一話では、『呪術廻戦』の虎杖悠仁役で知られる声優の榎木淳弥、『進撃の巨人」のエレン・イェーガー役の梶裕貴が出演。声が重要な作品なので、毎話ゲストとして有名声優が出演している。どの声が声優か探しながら視聴するのも面白いだろう。

「公務員がいないとこの国は回らない」管制官たちの葛藤

このドラマは、強い緊張感と責任感を求められる指令管制員として働く人々の群像劇として構成されている。物語の中心になるのは、粕原とその指導員である兼下睦夫(瀬戸康史)だ。かつて消防士だった兼下が、119番の指令センターに異動となった過去が掘り下げられ、一つひとつの通報に情熱を持って向き合う粕原に対し、厳しく接する理由が明らかになっていく。

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(C)SANKEI

その他の管制員にもスポットが当てられ、群像劇のように物語は進行していく。第3話では、新島紗良(見上愛)のエピソードが描かれる。普段は淡々と冷静に仕事をこなす彼女は、自分のことを語りたがらない。大学時代から付き合っている恋人がロンドンに転勤になり、自分がこの仕事を続けるべきかに迷いが生まれる。3話ではそんな新島の内面に迫り、プロフェッショナルな態度で仕事に向き合う理由が語られる。

彼女の父は消防局の救急隊員で母や市役所勤務。それ故に公務員が報われない仕事だとよく知っていた。しかし、コロナ禍でも休まず働く父を見て、「公務員がいないとこの国は回らない」との思いを強くして、指令センターの仕事を選んだという。とても責任感が強い人物なのだ。また、日本語を喋れない外国人からの通報も増加しており、新島は持ち前のスペイン語と英語能力でセンターのピンチを救ってみせる。

新島はチームの中で浮いた存在だったが、そんな彼女の献身と過去がわかることでチームの一員として結束を強めていく。そんなチームのまとめ役としてベテランの堂島信一(佐藤浩市)だ。仲間と打ち解けようとしない新島は「仕事で多くの人の話を聞かないといけないのに、休憩時間にまで話をする意味がわからない」と言う。そんな新島に、堂島は「くだらない話も大事」と諭す。「聞くばかりではきつい。それ以外の時間にはくだらない馬鹿話でガス抜きしないとつぶれてしまう。声に出して助けてと言える人が結果タフなんだ」と声をかけたことが、彼女が心を開くきっかけになっていく。

そんな風に司令課3係のメンバーを一人ずつ掘り下げてドラマは進む。身近な119番の電話の向こうで働く人々がどんな思いを抱えているのか丹念に描き、その責任感と使命感を知ることができる貴重なドラマだ。



ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi