1. トップ
  2. 『呪術廻戦』五条悟の過去編で描く「青春と鬱」の絶妙なコントラスト

『呪術廻戦』五条悟の過去編で描く「青春と鬱」の絶妙なコントラスト

  • 2024.9.28
undefined
(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

2025年に総集編の劇場公開が決定した『呪術廻戦』の第2期「懐玉・玉折」。五条悟(ごじょうさとる)の過去編であり、親友の夏油傑(げとうすぐる)との青春をコメディタッチをまじえながら爽やかに描いている。だが、『呪術廻戦』らしいやるせない結末が待っており、その落差に多くの視聴者が突き落とされた。そんな「懐玉・玉折」では、“鬱展開”ともいえる展開を暗示するように不穏な演出が散りばめられている。

紅茶やたこ焼きから読み解く“不穏な意味”

第26話の冒頭で、呪詛師集団である「Q」の一員を捕らえた夏油が悠々と紅茶を淹れるシーンがある。ティーバッグをカップに入れ、お湯を注ぎこむ。ティーバッグはお湯に染み出し、じんわりと紅茶の赤色が広がる。

五条と夏油が護衛することになった天内理子(あまないりこ)を狙う伏黒甚爾(ふしぐろとうじ)のシーンでも不穏な描写が。食堂で孔時雨(こんしう)との電話を終えた甚爾のあとに映し出されたのは、割り箸が刺さり中身がどろっと漏れ出すたこ焼きだ。

こういった意味深な演出は「懐玉・玉折」にて数多く見られる。たとえば、第25話で五条がゴールに投げたバスケットボールは見事に入るが、夏油が投げたボールは惜しくも入らない。バスケにすら才能を見せる天才の五条とそうでない夏油の2人を、バスケットボールがゴールに入るかどうかで暗喩しているのだ。

お湯に広がる紅茶の赤色は血が滲んでいく様子を彷彿とさせ、どろりとあふれ出すたこ焼きの中身もやけにグロテスクさをまとっている。わざわざ描写する必要がないように思える紅茶とたこ焼きのカットだが、この後の展開を観ると“不穏な意味”を持ってくる。

繊細な演出が引き立てる青春感と鬱展開のギャップ

undefined
(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

天元様と同化させるために天内を護衛した五条と夏油だったが、五条は一瞬の隙を突かれて甚爾に刺され致命傷を受ける。また、天内の気持ちを思いやって天元様との同化をなしにしようとした夏油が「帰ろう、理子ちゃん」と手を差し伸べた瞬間、天内は甚爾に頭を撃たれて死んでしまう。

沖縄で海に入って楽しく過ごしたり、水族館で美しい魚を眺めたり……。これまで五条たちと天内が短くも青春と呼べる時間を送ったからこそ、天内の死という突然すぎる展開は残酷でこたえる。

しかし、この五条たちのまぶしい青春と天内を守りきれず死なせてしまう鬱展開のギャップが「懐玉・玉折」の真骨頂だといっても過言ではない。そして、甚爾に刺されて瀕死になる五条や撃たれて頭から血を流す天内は、血やグロテスクなシーンを彷彿とさせる不穏な演出が暗喩していたように受け取ることができる。

原作を読み「懐玉・玉折」の結末を知っている人にとって、序盤の不穏な演出はそわそわと落ち着かない。登場人物の死を匂わせる効果もあり、続きが観たいようで観たくない……という複雑な心境を生み出した。ハラハラ感を煽るとともに青春感と鬱展開のギャップを一層引き立てているのが、随所に散りばめられた不穏な描写なのだ。

総集編はすでに知っている内容だからつまらないと感じる人もいるかもしれないが、五条と夏油の最強タッグの活躍や彼らの前に立ちはだかる甚爾など、見どころたっぷり。迫力のある戦闘だけでなく繊細な演出も光る「懐玉・玉折」は、『呪術廻戦』屈指のエピソードだ。

呪術廻戦
ABEMAにて~9月29日23時59分までアニメ第2期 懐玉・玉折を一挙無料放送中
[番組URL]https://abema.tv/video/title/536-1
【(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会】


ライター:まわる まがり
主にアニメについての記事を書くライター。コラムや映画の作品評、漫画のレビューを手がける。X:@kaku_magari