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「〇〇な人はダメ」の連呼 朝ドラ『虎に翼』で初めて描かれた優三(仲野太賀)の“エゴ”

  • 2024.8.19

『虎に翼』第19週で、優三(仲野太賀)が寅子(伊藤沙莉)にもらったお守りに入れた最後の手紙を読むシーンが描かれた。第1話から寅子にとっての血がつながらない家族として、寅子を見守り続け、彼女がどんな状態であろうと愛し続けた優三の姿をそのまま表したかのような手紙に朝から涙した人も多いだろう。寅子と優三のこれまでを振り返りつつ、手紙の内容を読み解いていきたい。

血のつながらない家族から夫へ

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『虎に翼』第6週(C)NHK

第1話の時点で数年は暮らしていたことが伺えるほど、寅子とは兄妹のような良好な関係を築いていた。寅子が法律を学ぶなかで感じる「はて?」という気持ちを受け止めてくれ、猪突猛進気味な彼女を抑えてくれるのも優三だった。寅子と優三は、1本の柱を挟んでいつも横並びで会話をする。向かい合うのではなく、法律を学ぶ者として同じ方向を見る同志だった。

関係性に変化が出たのは、優三が猪爪家を出たとき。寅子はここで初めて優三がいないこと、話ができないことに切なさを感じる。このシーンを恋慕ではなく、家族の一員がいなくなったことへの寂しさと捉えた人もいるだろう。しかし、この時点で寅子にとって嬉しいことも悲しいことも話したい、話を聞いてほしいのは優三であると捉えることもできる。寅子は話すことで発散をする人物だ。話を聞いてほしいと思った時に、一番最初に優三が浮かぶ時点で、寅子にとって優三はとてつもなく大きな存在であるということが伺える。

弁護士になった寅子は仕事のために結婚を望むようになり、結果的に優三と結婚する。優三が、家に来ているのを見た時の寅子のキラキラした表情からは、彼に会いたくて仕方なかったという想いが表れていた。寅子は、話を聞いてほしい、会いたい、一緒に時間を過ごしたいという欲望を持っている。これが恋心ではなかったらなんなのかと言いたいところだが、この時点では自身の恋心に気づいていないのも寅子らしい。

いわば契約結婚だった2人だが、優三は昔から寅子を想い続けていた。寅子はその気持ちを受け止めつつ、優三の言葉から“どんな寅子も受け止める”という愛情に触れて、やっと自身の恋心を自覚する。

人が恋に落ちる時、そのすべてが劇的なわけではない。兄妹のような関係から、あるきっかけにより変化し、ある言葉によって自分のなかに芽生えた恋心に気付く。家族としての愛が下地にあった二人だからこそ、シームレスに夫婦へと移行することができた。ロマンチックではなくても、長い時間を経て育った互いへの愛が寅子と優三には確実にあったのだ。

優三の言葉が寅子の背中を押し続ける

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『虎に翼』第8週(C)NHK

優三は、出征する前日に寅子にある言葉を送る。憲法第14条を落とし込んだものとも感じられる寅子の存在を全肯定する言葉に、折れかけていた寅子の心は支えられることになる。自分が望んで戻ることを決めた法曹界で、大切な人が望んでくれた自分でいようと決意を固めることができた。

新潟編では、優未に優三の面影を見るも優三がどんな人物だったかをうまく話せない寅子が描かれた。どんな人間だったかを説明するのは難しい。大切な人であればあるほど、さまざまな面を知っている。だからこそ一言では言い表せない。

優未からの話をそらした瞬間の寅子の頭のなかには、さまざまな優三の姿がかけめぐり、胸が詰まるような感覚に襲われたのではないだろうか。言葉で定義したら、自分の中の記憶が本当に過去のものになってしまう、優三を過去の人物にしてしまう。死に向き合えていないというこれ以上ないほどの表現だっただろう。そして寅子が一瞬話をそらしたことがきっかけとなり、優未に「父親について知りたい」という想いが生まれ、優三の手紙を見つけるに至る。

優三の手紙に詰まった愛情とエゴ

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『虎に翼』第19週(C)NHK

優三の手紙には、未来を生きていく寅子への願い、寅子への信頼と存在の承認が詰まっていた。そして、なんともいじらしい「〇〇な人は駄目」の連呼。何よりも自分が2人を愛しているという想いが詰まった内容は、ある種優三が作中で初めて出したエゴだったようにも感じられる。そしてエゴをぶつけたあとに、「その人を前にして胸が高鳴ってしかたないなら手紙の内容も僕のことも忘れて」と書いてしまうのも優三らしい。

優三は生きている時も、亡くなってからも、寅子が立ち止まった時や悩んだ時に心の奥底まで響く宝物のような言葉をくれる。それはすべて、寅子に対する深い愛情に裏打ちされた「どんなあなたも素晴らしい、愛している」という寅子の存在をまるごと受け止める言葉だ。

航一という新しいパートナーとの関係を進めることにした寅子。優三から航一へバトンが渡ることに寂しさも募るが、優三とは違った愛情を持つ航一との関係がどう育っていくのかを見守っていきたい。



NHK  連続テレビ小説『虎に翼』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202