1. トップ
  2. 何故自分だけ生きているのか?震災の残酷さを見事に表現した朝ドラ『おむすび』姉妹の絆にも注目

何故自分だけ生きているのか?震災の残酷さを見事に表現した朝ドラ『おむすび』姉妹の絆にも注目

  • 2024.11.8

朝ドラ『おむすび』が、1つの節目を迎えようとしている。第1〜3週まで丁寧にヒロイン・結(橋本環奈)の高校生活を描いてきたが、第4週からは米田家の神戸での日常、阪神淡路大震災を経て米田家に何が起きたのかに触れ、それぞれの心の傷を繊細に描き出している。特に、結の姉・歩(高松咲希)がどう悲しみを乗り越えようとしたのかは、本作が描きたいことの軸になっている。

阪神淡路大震災が起きた“あの日”

undefined
『おむすび』第5週(C)NHK

1994年10月、米田家は神戸で穏やかな日々を送っていた。歩と結は仲睦まじい姉妹で、歩にはファッションや安室奈美恵などの音楽を共に楽しむ親友の真紀(大島美優)がいた。そんな平穏な日常が、阪神淡路大震災によって脅かされてしまう。

歩と真紀の「また明日」という約束は果たされないまま、真紀はタンスの下敷きになって亡くなってしまった。真紀の死を知らされたあとの歩の表情からは、親友が亡くなったという絶望はもちろん、これまで真紀と培った友情の深さやなぜ自分だけ生きているのかという自問自答も感じられた。

undefined
『おむすび』第5週(C)NHK

一方、まだ幼かった結は何が起きたのか理解ができていない様子。なぜ電子レンジを使っておむすびを温められないのか、家がぺしゃんこになってしまったのか。阪神淡路大震災は、日本の防災意識が大幅に変化したきっかけとなる震災で、これ以降震災に関する教育も変化したと言われている。この時点の結が大きな地震でどんな被害が起きるのかを理解していなくても、仕方がない。

永吉に連れられて糸島で暮らすようになった米田家。結は徐々に順応していったが、歩はそうではなかった。一人の部屋で食事をし、泣けるようになったとしても、歩は中学に行けないまま。歩の脳裏には、ずっと地震で変わり果てた神戸の町や親友の死が浮かんでいたのかと思うと、胸が苦しくなる。生活が脅かされる被害にあったとき、その悲しみを乗り越えるまでにかかる時間は人それぞれだ。乗り越えたと思っても、数年後にトラウマがぶり返すこともある。歩は中学の間ずっと悲しみを抱え続け、高校の入学式の日、ギャルになるという形で、自分の心を鼓舞し部屋から出てきたのだ。

結の心境はどう変化していった?

阪神淡路大震災の“あの日”が描かれた第5週では、ほとんど歩のことしか描かれていなかった。結が糸島でどのように、阪神淡路大震災を飲み込んだかについては触れられていない。神戸の街に何が起きたのかわからなかったあの頃の結は成長に伴って、阪神淡路大震災の被害の大きさや真紀にふりかかった悲劇を、少しずつ理解していったのではないだろうか。結の平穏無事な生活を望む言葉や、大切なモノがあってもどうせ無くなってしまうという言葉には、結が震災をどう受け止めたかが表れている。

ある意味で日常を冷めた視線を向け、期待しないことで震災を受け入れた結に比べて、歩の乗り越えた方はとても不器用に見えるだろう。ギャルになり親に迷惑をかけている姉、そのせいで悩んでいる聖人(北村有起哉)の姿を見ることになった結は、震災の被害そのものではなく、震災が引き起こした家族の歪みに対しても悲しみを感じ、姉のようにはならないと意固地になっているように見える。

undefined
『おむすび』第4週(C)NHK

糸島フェスでの華やかなパラショーでは、心の底から今を楽しんでいるように見えた結。楽しいからこそ、手放したくなる。自分がギャルになって、それ以外にも好きなことをして誰かが悲しむくらいなら、どうせ無くなるくらいなら全部いらないと、諦めの感情が滲む。それが結の処世術だったとしても、そんなこと言わないでと、異を唱えたくなるむなしさがそこにはある。

SNSでは、「姉妹の絆に泣ける」「オープニング曲の歌詞の意味が深まった」など、歩と結の心情を繊細に描き出すシーンに好意的な意見が集まった。当時の防災意識の未熟さを思わせるセリフや小道具が随所に見られ、細やかな震災描写に阪神淡路大震災から30年の節目の朝ドラとしての覚悟が感じられる。結が神戸での生活、歩との確執に向き合う展開は、間違いなく本作の節目となる。ここから、結が何を思うようになり、成長していくのかに注目したい。

NHK 連続テレビ小説『おむすび』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202