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「触らないで」遺品整理で言われた一言『海のはじまり』池松壮亮が演じる“津野”の孤独

  • 2024.8.14

「家族」を定義づけるものは、何だろう。やはり、血の繋がりなのだろうか。8月12日に放送された『海のはじまり』第7話では、病気を患った南雲水季(古川琴音)の亡くなる以前の様子が描かれた。水季と娘の海を献身的に支えた、同僚の津野晴明(池松壮亮)の孤独にも焦点があたる。

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(C)SANKEI

“家族”じゃないがゆえの津野の孤独

水季がシングルマザーであることを知ってからも、彼女の病気が発覚してからも、職場の同僚である津野は懸命に真摯に、水季と海(泉谷星奈)を支えていた。

津野自身、必死で彼女たちを支えていたにも関わらず、いざ水季が亡くなってしまったら「家族じゃないから」という理由だけで「第三者」のポジションに追いやられ、蚊帳の外である現実に嘆いているシーンもあった。

「いろいろあって勝手に産んだから、親にも頼りたくなくて」と頑なになる水季を、誰よりもサポートしていたのは津野だ。実際のところ、津野が保育園のお迎えに行ったり、終業後に面倒をみたりしていなければ、水季自身が言っていたとおり、到底子育てなどできなかっただろう。

それほど献身的だった彼の努力は、注ぎ込んだ時間は、流した汗は、どこへ行くのか。いざ、水季が亡くなってしまった報せを受けるときも、予感を胸に息が詰まり、しばらく電話に出られなかった津野。しかし、水季の遺品整理を手伝おうと向かった先で、朱音(大竹しのぶ)から無下に断られてしまう。「触らないで。家族でやるんで、大丈夫です」と一言、告げられて。

やはり、家族でないといけないのか。“家族”と“第三者”の壁は、それほどまでに厚いのか。津野の懸命な行動と想いを知っている唯一の人物は、遠いところへ行ってしまった。海の存在が、津野にとっても救いとなっていたはずだが、彼女が無邪気であればあるほど、津野の抱える孤独は彼だけのものになっていく。

第三者同士が共有するのは……

水季の墓参りにやってきた、月岡夏(目黒蓮)と海、そして百瀬弥生(有村架純)。津野も同じ場に行きあい、ポツポツと言葉を交わすことになった。帰り際、駅までの方角が一緒になった弥生と津野は、“第三者”同士の心境を交換する。

夏には、かつて水季と一緒に過ごしていた過去と、娘の海がいる。弥生や津野は、海という存在を通して繋がってはいるが、その糸はふとした瞬間に途切れ、なくなってしまう脆さと隣り合わせだ

弥生が「海の母親にならない」選択をすれば、夏や海との関係はなくなる。津野にいたっては、水季が亡くなった時点で、言ってしまえば赤の他人だ。血の繋がらない、家族ではない第三者同士である弥生と津野が、共有し合ったもの。それは、薄弱な繋がりと、それでも強く結びついていたいと思う縁の行方だったのかもしれない。

家族はままならない。血の繋がった家族や親族であっても、お互いのことを100%理解し合うことはできず、伝わらなかった思いは空中に霧散していく。血縁関係じゃないならばなおさら、全力で向き合うことも許されず、思いを伝える機会さえ得られないこともある

弥生は、どんな選択をするのだろう。津野に対しては「母親になりたいからです」と口にしていたが、彼女のなかでの「海の母親になりたい」という希望には、一点の陰りもないのか。弥生も津野も、家族ではないという厚く強い壁を、どう乗り越えていくのだろうか。



フジテレビ系 月9ドラマ『海のはじまり』毎週月曜よる9時
ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。
X(旧Twitter):@yuu_uu_